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CAST:ルーク・ピオニー
ルーク、夜中に散歩する の巻

ねむれぬよるに

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「ルーク殿、どちらへ?」
「ん、そのへんをぷらっと。駄目かな」
「いいえ。ああでも、正門は閉じていますよ」
「うん。判った、ありがとう」
 出入りしているうちに何となく顔見知りになった不寝番のマルクト兵と、そんなやりとりをしながら、宮殿の廊下を歩く。マルクト軍の兵士と気軽に会話するようになるなんて、少し前まで……バチカルの屋敷に軟禁されていたころは、有り得ないと思っていた。
 有り得ない、というなら。傲岸不遜を地でいっていた俺が、夜、眠るのが怖いと思うようになるなんて、それこそ考えてみたこともなかった。
 眠って……寝ているうちに音素が乖離して、もう二度と目を覚ませないんじゃないかという恐怖。それもある、けれど。眠る前、独りでぼうっとしていると、碌でもないことばかりが頭に浮かんでは、際限なく回り続けて……それが、嫌だ。俺がしなければならないのは、反省であって自虐ではない。判っているはずなのに、頭の中で渦を巻くのは『逃げずに考えなければいけないこと』ではなく、『考えても仕方のないこと』の類。まるで、泥沼に沈んでいく悪い夢のよう。……目が覚めたら消える夢ではなく、現実なのだから余計に悪い。
 それでも、いつもは。戦闘に次ぐ戦闘であるとか、なにかと慌ただしくて、考える暇もなく眠りに落ちて。そんな身体の疲労に、だいぶ救われている。でも、こう、たまに。忙しい毎日のなかに、ゆっくり休める一人の時間がぽっかりできて、それが夜だったりすると覿面で駄目だ。螺旋階段を下るように、悪い方悪い方へと考えてしまう。
 その憑き物めいた思考を振り切るように、青い宮殿のなかを歩く。昼間は晴れがましい光に満ちているグランコクマの宮殿。でも今は、青と白の美しさも、よそよそしく冷たいばかり。皆と一緒にいるときは気にならない……むしろ心地良いと感じる滝の音も、妙に神経に刺さった。
 その、水音のなかに。なにか他の音が混ざっている。
(何だ……?)
 足を止め、耳を澄ます。
(真珠……)
 のような、まろやかな音色。首を巡らせ、音源を探す。
 特定の、きちんとした曲というわけではない。手慰みに爪弾いているような、音の連なり。かといって散漫な、という印象は無い。天鵞絨の上を転がる真珠のような音。或いは重露の涓滴のような。自由で気侭で、そしてとても……
(綺麗、だ)
 音を辿り、回廊を抜け。滝の音と親和して柔らかな音は、庭園の方から転がってくる。石畳に靴音を響かせぬよう歩き、木立の合間を潜り。そしてそこに見つけたのは、意外な……それでいて内心そうではないかと思っていた影。
 ゆったりとした下衣に、素足。上半身は裸で、肩に薄手のガウンを引っ掛けた、人。
 このような、軽装と言うにも程がある姿でフラフラしていていい人ではない。いや逆に、この青の宮殿で、このような格好でも許される唯一の人物というのが正しいのかもしれない、マルクトの皇帝。
 音に惹かれて、此処まで来てしまったけれど。『それから』どうしようとは考えていなかった。邪魔するのも悪い、というか正直、積極的に話しかけたい相手ではない。けれど妙に立ち去りがたい。
 背反する気持ちを抱えて立ち往生していると、真珠……竪琴の音色がはたりと止み。代わりに聞こえてきたのは喉の奥に籠もるような、艶のある苦笑。
「よう、ルーク」
 正確に名前まで呼ばれては、植え込みに隠れる意味はない。2・3歩進んで、姿を晒す。
 何か言わなくてはと焦り、口籠もれば。陛下は「そぞろ歩きにはいい夜だな」などと全く気にしない様子。それで肩の力が抜けて、こくりと頷く。
「よくこの場所まで来られたな?」
 客室からだと少し入り組んでいたろと言われて、これにも頷く。
「でも、音を辿ってき……ました、から」
 そう、ここまでは目印というか耳印というか、音を頼りに来られたけれど。正直、ここから客室にすんなり戻れるかどうかは心許ない。
「いい耳だ」
 にこりと、人好きのする笑顔。
 言葉遣いを意識して整えようと思うと、まだどうしてもたどたどしい。けれど、話のしにくい人ではない。一旦言葉を交わしてしまえば、その気易い雰囲気から、苦手意識は薄らぐ。もうひとつこっそり息をついて気持ちを落ち着かせれば、やはり、腕に抱えた竪琴が気になった。
 陛下の腕に馴染む大きさは、竪琴としては大きいのか小さいのか。弦の数は十。セフィロトと同じ数だ。ふとそう思ってから、首を捻る。何故今突然セフィロトなんて思い出したんだ?
「ん? どうかしたか、ルーク」
「その、陛下は。竪琴を弾く、んですね」
「まあな。……意外か?」
「え、あ。……少し。そういう趣味があるとは聞いていなかったので」
「趣味、っていうかな。マルクトの国旗を思い浮かべられるか?」
「確か……三弦の……あ」
 マルクトの国旗は、青地に白抜きの、三弦琴、だ。
「まあそういうことで。皇族の嗜み、みたいなものなんだな。弾けないなら弾けないで別に困りゃしないが」
 そうは言うものの、ガウンの長い裾を夜風に遊ばせながら二つ三つと和音を奏でる姿は、本職の如く堂に入って見える。
「でも、音を聞いただけですけど。嗜みって域じゃない、ですよね」
「俺はこれで結構、器用なんだ。竪琴は子供の頃、かなり弾いたしな」
 冗談めかした口調に思わず頬が弛む。
「陛下が部屋でおとなしく楽器の練習なんてあまり想像できないですね。むしろ外……で……」
 刹那の間。
 口を衝いて出た、己の言葉に凍りつく。
 子供の頃というのは、必要に応じてというより、好きだからというより、多分それこそ手慰み。
 ……本当に本当に本当に他意はなかった。
 屋内よりも屋外で遊ぶ姿の方が想像しやすいと……この人には、華美な室の中よりも、何処までも広がる青い空の下が似合うと、そう思っただけだ。
 けれど。よりによって。他でもない俺が。白い鳥が窓の外を飛ぶ、そのありふれた風景を、気も狂いそうな思いで見つめていたこの俺が。
 言ってしまった言葉は、引っ込めることができない。髪を切る前から、何度繰り返したか判らない後悔。
 ぐるぐると回る感情は眩暈のように姿を歪ませ、次第に具体的な形を失う。焦燥、悲嘆、慟哭、寂寥、呵責、自棄、後悔、後悔、後悔後悔後……。
 吐き気がするような思考の波が押し寄せて。何かが決壊しかけた瞬間。強い力に引き摺られて、踏鞴を踏む。
「ルーク」
 気が付いたら、陛下に抱き締められていた。親が子を庇い護るように、しっかりと。
「我慢するな。吐き出しちまえ。泣けるなら泣け。それが無理なら、声の限り叫ぶでもいい」
 その声の通り、頬に涙が伝う。まるで譜術……って、この人。実は第七音譜術士かなにかじゃなかろうか。
 暖かな声と鼓動と体温。躊躇いのない力強さ。身を凭せ掛けてもびくともしない腕に気が弛み、その襟元に思わず縋る。
「……め、なさ……っ」
 やっぱり、さっき。なにか壊れたらしい。
「ごめんなさいごめんなさいごめんな、さ、い……!」
 溢れた言葉は、止められなかった。
 
 
 
 それから暫く……どれくらい『暫く』だったのか、ちょっと考えたくはないけれど……して。涙も呼吸もだいぶ落ち着いてきたところで、はたと我に返る。この状況は色々な意味でとんでもないと、今更理性が囁く。
 ど、どうしよう。握りしめたガウンに皺が。このガウンの素材、苧麻や綿花じゃなくて、絹糸だよな。じゃ、じゃなくて。
「あ、あの陛下」
「なんだ」
「その、俺、もう大丈夫で……」
 身じろぎすれば、なおのこと腕に力を込められて。後ろ頭をぽんぽんと叩きながら、陛下は軽やかに宣う。
「こんなとき、俺がお前を受けとめてやらんでどうする。お前、女の子の胸に抱かれて役得と思えるタイプじゃねえだろ。ガイラルディアは常備薬なだけに効果が顕れるまで時間が掛かるだろうし、ジェイドは、なあ。あれはあれで、ま、あれなんだが、どうにも胡散臭いしな」
 その言い種が妙に可笑しくて、小さく噴き出す。
「大丈夫なら、それを言葉にできるか?」
 顔を上げれば、青い瞳と目が合う。穏やかだけれど、優しいばかりでもない、水鏡のような瞳。直視し続けるだけの気力はなく、へたりと、肩口の辺りに額を落とす。ああしまった、襟元、皺だけじゃない。涙の染みも、だ。アニスが見たら極上物になんてことと首根っこ掴まれてガタガタ言わされそうな有様。そんでもって陛下に手間掛けさせただなんて知られたら、ジェイドには文字通り雷を落とされること間違いなし。なんだかもう、ここまできて変に遠慮するのもおかしな話、かも。そう、無理矢理、腹を括る。
「俺は、その。手当たり次第に、がーっと走ることしかできなくて。でも、徐々に復旧していく街や、預言に頼らない……新しい生活に慣れていく人たちを見て。俺のしてきたことは、ささやかなことだったんだなあ、って……」
 セントビナーが崩落する前。この人に『頼む』と言われて、体が震えるほど嬉しかった。これは罪を贖う機会。俺にできることを精一杯やろうと、そう思った。
 本当に精一杯。その時その時、持てる力を使い尽くして、俺は事に当たってきた。それに間違いはない、けれど。それは怪我に絆創膏を貼るような、応急処置でしかないことにも気がついていた。必要な所に必要な物資や資金や人材が届くように手配したり、状況に応じて情報を統制したり、治安を維持したり。技術者や研究者を育てたり、知識や記録を保管したりと、そういう地道で長期的な活動こそが傷を癒す。多少の傷をカバーできる体力をつくる。
 常日頃の積み重ね。それに加えて、上に立つ支配者の器量。一連の流れの中で、実際の被害はキムラスカより、マルクト側の方が大きかった。にも関わらず、民の混乱はマルクトの方が少ない。陛下は信仰に替わるほどの求心力をもって、不安や恐れと闘う人々の、拠り所となっている。
 悠然と構えて微笑むことが、力になる人。微笑むことで、大勢の人を救い、導く人。
 ……苦手な人だと思っていた。けれどそれは、俺がしでかしたことの始末を肩代わりさせてしまっている後ろめたさもあるのだと思う。
 その人の『頼む』という言葉は。マルクトの民を頼むという意味も、勿論あったろうが。打ち拉がれていた俺を立ち上がらせてくれた言葉でもあった。
 護るつもりが、目には見えない力で護られていた。そして俺は、それを拠り所にして走っていた。
「セントビナーの救助に向かったこと、外郭大地を降下させたこと、障気を中和したこと。でも、そもそも俺がアクゼリュスで馬鹿な真似をしなければ、大地を下ろさずに済んだ。障気だって、そんな何日かでどうこうなる代物ではなかったし……実際研究機関も動き始めていたし、俺やアッシュが先走らなくても……一気に消すことは無理でも、時間を掛けて解決できたかもしれない。それなら、俺の同朋、レプリカたちの生命を喰らうことも……っ」
 ああ駄目だ。やっぱり同じようなところに落ち込んでしまう。
「判ってはいるんです。焦っても仕方のないことだって。けれど! けれど……っ」
 本当に俺は至らない。後々になって、もっとやりようがあったのではないかと、そんなことばかり考える。
「……なあ、ルーク」
 どこか、のんびりと聞こえる陛下の声。
「さっき、謝っていたろ。もう一度、今度は俺の目を見て言ってみ?」
 その声に、操られるように。
「……ごめんなさい?」
 俯いて、呪文のように繰り返していた言葉を。顔を上げて、一言だけ紡ぐ。
「よし」
 そう頷いて、陛下はふうわりと笑った。僅かな所作にさらりと揺れた金の髪がルナの光に縁取られて、あえかに輝く。
 それがあまりにも綺麗で、奇妙な不安を覚える。
「これでお前の肩の荷は、俺が引き受けた」
「……っ!」
 案の定、俺はまた。
 ガイも、言ってたじゃないか。あれは、そう、アラミス湧水洞で。取り返しのつかないことを謝られても、謝られた側の気持ちのやり場はない、謝った方の気が済むだけだ、と。そんなことを。
「陛下、俺は、俺はそんなこれ以上……っ」
「いいんだよ、ルーク。手綱を握って、責任を負う。それが俺の仕事だ。お前が罪咎だと思っているもの、それを抱えてどうにかなるくらいなら、俺はとっくに潰れているさ。引き受けてやるから、お前はお前の好きなようにするといい。ま、ジェイドあたりに相談して決めてくれると、俺としても安心なんだが」
 そして少し何かを思案するように視線を伏せた後、ネタばらしとでも言わんばかりの悪戯な表情で言葉を継いだ。
「実のところ、お前から謝罪の言葉を引き出さずとも、俺のやることに変わりはねえんだけどな。俺の気分の問題で」
 だからそんな押しつけたなんて思わなくていいんだぞ、と。俺の思考を読むような陛下の言葉に、それなら何故謝らせたのか、不思議に思う。謝って済む問題ではないからずっと飲み込んでいただけで、望まれるならいくらでも……。
 あ、ああ。そうか。陛下は謝らせたのではなくて、謝らせてくれた、んだ。吐き出せと言われてつい零れた言葉を拾って受けとめてくれたのだ。
「返事は?」
「あ……はい」
 思考が追いつかない状態で答えを促され、つい返事をしてしまう。声高でもなく、相手の意思を尊重するかのような問い掛けなのに。否と言わせないのは、最早才能だろう。
 満足げに、そして「この話はこれで終い」とでも言うように髪をくしゃくしゃ掻き混ぜられて、つい目を閉じる。手が止まったので薄目をあければ、何を思いついたのか、魅力的な、けれどあまり性質の宜しくない笑顔がそこに。
「いい子だ、ルーク」
 今までとは、どこがどうと指摘はしにくいけれど何か違う仕草で抱き竦められて、本能的に突き飛ばす。
「なっ……あ、これはそのっ」
 それこそ事態に対する理解が及ばないながらも、あからさまに撥ね退けてしまった非礼をわたわた弁明しようとすれば、当の陛下は満面の笑み。抵抗なくほどけた腕、うっかり力を込めてしまったにも関わらず、よろめきもしない姿勢……反応を予想していた様子に、からかわれたのだと思い至り、がっくりと肩を落とす。どうしてこの人は、こう。こんなオチさえつけなきゃ凄え格好いい人なのに。てか、これじゃあ……ここで礼を言うのは、もの凄く変じゃないか。礼はいらないってことか?
「少しは気が晴れたか」
「…………ええ、まあ」
 憮然と返せば、
「では、もう眠れるな?」
 足元に放置していた竪琴を拾い上げながら、とか。何気ない調子で、そんなことを。
 ああもう。ほんっと、お見通し。があっと頭に血がのぼる。
 泣きっ面を晒した後で、今更だとは思うけど。それでも真っ赤な顔を見られたくなくて。
「はい大丈夫ですっ」
 勢いよく背を向ければ、そこに、くつくつと押し殺した……それでもカクジツに状況を楽しんでいる笑い声が降り注ぎ、なんだかとても居た堪らない。破れかぶれのように「ありがとうございましたおやすみなさいっ」と叫んで、どうしようもない衝動のまま走り出す。
 おやすみ、と。心に沁み入るような深みのある声が返ってきたときも、意地でも振り向くもんかと思う。
 ……そんな意固地にならずとも、ここで一矢報いるつもりなら、こう訊けば良かったのだ。こんな時間にこんな場所でひとり竪琴を爪弾いている陛下にも眠れない理由があるのですか、と。
 猛然と駆け出してしまった手前、機会は逸してしまったし。十中八九、煙に巻かれてしまうだろうけど。
 
 
 
 庭から建物の中まで一気に駆け、壁の陰で足を止める。大きく息を付いて、その場に蹲る。目を閉じれば、竪琴を抱え直した陛下の姿が脳裡に浮かび、思わず唸る。
 天には、輝く銀盤と宝石箱をひっくり返したような星の数々。文化の一等地らしい優美な拵えの庭園に、絶えることない水簾の音。そこにぴたりと嵌まる、金の髪の竪琴弾き。その美丈夫は実は高貴な身分で……なんて、ナタリアの好きな小説、それこそ『マルクトの星』とかに、まんまありそうなシチュエーション。別に、そこまではいいんだ、そこまでは。でも、竪琴の音色に惹かれた結果、身分を窶した楽師に出会うのは、どう考えてもヒロインの役所だろ。そんなやけにお約束な雰囲気のなか、こともあろうに抱擁……、いいい、いやでもあれはっ。こう表現するのは多少癪だけど、大人が子供をあやすようなもの。だから、あんまり考えちゃいけない。背に回された腕の確かさとか、頬を擽る絹糸のような髪とか、至近距離で仄かに香る芳気とか、褐色の肌のなめらかな温もりとか、耳触りのいい低い声……と、か。
 客観的に考えれば考えるほど、とんでもない……。
 深呼吸を繰り返して動悸を宥めていると、また竪琴の音が聞こえてきた。今度は一定の様式に則った楽曲の形をしている。音楽にあまり興味はなかったけれど、それでも育った環境が環境、一流の音は聞き慣れていて。その耳で聞いても遜色がないのだから、やっぱり巧いのだと思う。
 何の曲だかは知らない。けれど、蕩々と流れる水のように伸びやかな旋律はゆったりと心地良く、ほんの少し哀切も含んでいて、それが心の琴線に共鳴する。まるで、ティアの譜歌。これはひょっとして、子守唄……だろうか。
 頬に手を当てれば、まだ熱い。ああ、これじゃ。先程までとはまた違った意味で、眠れるかどうか判らない。水底の宝玉のような竪琴の音色と、ルナの光の中に佇む面影にあてられて。けれど……静謐な光も意外と似合っていたと思うけど、陛下にはやっぱりレムの光が相応しい。翳りなく、燦然と、煌めくような……。
 あ。
 そう、か。
 竪琴の弦を数えたとき、いきなりセフィロトを思い出したのは。きっかけは竪琴じゃなくて、陛下の方、だ。陛下の姿に、セフィロトツリーを連想したのだ。
 揺るぎなく世界を支えて立つ、光の大樹。
 己の無知、そしてこの手で壊してしまったものの、象徴。
「苦手、な、わけだよな……」
 ぽつりと呟いて、額のあたりで前髪を握りしめれば。玉座を最後の皇帝の血で汚し……という惑星預言が頭をよぎり、肌が粟立つ。
 今度こそ。今度こそ間違えない。レムの塔で一度拾った命、使うなら有効に。しっかり目を瞠り、前を見据え。一歩を踏み出そうとして、一度だけ……そっと振り返る。

 それができたら……そのときは。
 セフィロトツリーのようなあの人に、真っ直ぐ向き合うこともできるだろうか。

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【あとがき】
陛下のハグはとっても効きそう。
ルークだけでなく、皆、苦しいことや悲しいことがあって挫けそうなときは陛下にぎゅっとしてもらうといいと思います。ジェイドやサフィール、イオン様や六神将(勿論ラルゴも含む)、レプリカネビリムからヴァン師匠まで纏めてひっくるめて面倒見てもらうがいいですよ!
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読ませていただきました
ピオニー陛下が素敵でしたvこんな人が自分の主だったなら命をかけてついていってしまうでしょう!落ち込んでいるときにぎゅっとしてもらうのも至福でしょうが、陛下を支える人間になるのもよしです。ルークやガイ、アスランにはぜひそんな心情でいてもらいたいです。
かんな EDIT
at : 2007/06/24(Sun) 11:06:55
ありがとうございますv
>かんなさん

コメント、有り難うございますv
SSを書くときは、お仕えしたくなるような主君として格好いい陛下を(目指すだけは)目指しているので、いただいたお言葉はとても嬉しいです。
一方通行でない、ギブ&テイクのバランスの取れた主従って良いですよね!
管理人 EDIT
at : 2007/06/25(Mon) 01:58:41
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