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CAST:ガイ・ピオニー
ガイ、陛下にもの申す の巻

こいねがわくは

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 仕事は、速いんだよな。
 貴族院で取り纏められた書類を渡し、裁量を待ちつつ。文面に目を通す陛下の様子を窺う。
 そう、仕事は速い。それこそ野生の勘で仕事をしてるんじゃないかと訝るくらいに。それでいて正確かつ適切な采配を間近で見るにつけ、状況を把握した上で知識と智恵と経験を、勘に見える速さで働かせたものだと否が応にも理解する。凄い人だと、思う。
 でも……それはそうと、なあ。
 なんでこの人、寝台に寝っ転がって仕事するんだろ?
 仕事の質・量ともに、厄介で膨大。それは書類の作成に携わるようになった俺も、身に沁みて承知している。しかも俺が関わっている部分なんて、貴族院絡みのごく一部。全体の総量なんて、想像するだに恐ろしい。それを踏まえた上でも、こう、クッションに身を沈めて……えらく寛いで見える様子を目の当たりにすると、なにやら腑に落ちない。遠目だとホント仕事しているようには見えないんだよなあ。紙の余白にブウサギの落書きでもしてそうな雰囲気で。
 これで多少改まった格好をして、執務机で仕事をすれば。形式に重きを措くお歴々の目には、今の半分の仕事量でも、オーバーワークに映るだろうに。まあ、陛下の私室を訪れるような連中は虚より実を取る奴ばかりだから、問題ないっちゃあ問題ないんだろうが。でも、体裁の所為でこの人が正当な評価をされないってのは……この人の真価は体裁などに左右されないと判っていても、なんとなく面白くない。
 体裁と言えば。
「陛下。この部屋、もうちょっとなんとかなりませんか」
 この部屋の散らかりようは、間違いなく悪癖のひとつだ。
 寝台から摺り落ちそうな敷布、内容を確認するのは憚られる書類の束、正体不明の置物、手入れの途中という風情の短剣長剣、転がった筆記具、房飾りの付いた金属製の栞、適当に積んだ挙げ句、崩れた本の山。
 これで部屋さえもう少し片付いてりゃ、今よりは格好もつくだろうに。
「んー、まあ気にするな。汚れてるわけじゃないしな」
 それはそうだ。ひどく散らかっているだけで、窓は曇りなく磨かれ、棚などに埃は見られず、観葉植物の緑だってぴかぴかだ。優秀なメイドが手掛ける部屋は、一般家庭で屡々手を抜かれるような部分においては非常に行き届いていたりする。
「これで何処になにがあるのかくらいは把握してるし」
 そうは言っても。本なんか、開いたまま伏せたら傷むだろうに。待ち時間の手持ち無沙汰に、一冊、本を拾い上げる。『原色菌類図鑑』。なんだかなあ。気になって、他の本にも手を伸ばす。『塵劫記胸算用』『第一譜石預言余話』『失敗百選』『官能小説表現辞典』『新説オールドラント童話』『人倫訓蒙図彙』『譜術理論体系』『世界珍獣大全』……とりとめない。『譜業礼賛』。あ、これ借りられないかな。
「よし、と。ガイラルディア、その本、貸してくれ。一番大きい奴」
 枕元に置いてあった箱を手元に引き寄せながら、
「ついでだ、それも拾ってくれ。寝台の足の、そう、そこに転がってるの」
 指さされて、子供の握り拳くらいの大きさの、置物を拾う。何気なくひっくり返し、そこに刻まれた紋様に固まる。
「へ、へへへ、陛下っ!」
「お、どうもな」
「どうもではなくっ!」
 なんで御璽がこんなとこに転がってるんだ!
 慌てる俺など頓着せずに、陛下は箱の中から朱肉を取り出し、本を印褥代わりにして、選り分けた書類にぺこぺこと印を捺していく。捺印したのは持って行ってくれ、それ以外はもちっと預かっとくぞーとかナントカ呟きながら。
「やっぱり部屋、きちんと片付けて下さい!」
「だから気にするなって」
 二言三言交わす間にも、決裁済みの書類は次々と寝台の上に散らばり、スペースがなくなると、今度は足下の床を浸食し始めた。ひとつ溜息をついて、抱えた本を下に置く。胡座を組んで、重ねた本を机に書類の印面を懐紙で押さえて余分な印泥を拭いながら、毒されているよなあと、もうひとつ溜息。ここの床に座り込むのは、ブウサギの世話でなんとなく馴染んでしまったが。こんな格好で書類を整えるなんざ、貴族としても官僚としてもイレギュラーだろう。でもま、親玉からして虚より実を取るんだ、側近がそれに倣うのは自然の流れってもんだよな。
 ふと視線を感じて顔を上げれば、興味深そうな、面白がるような瞳の色。
 やっぱり本を文机にするのは御前に控える臣下として無精が過ぎたかと、背筋を伸ばし、できるだけ威儀を正して言葉を待つ。叱責されるとは思わないが、からかわれることくらいは覚悟する。すると陛下は、何かを言いかけて一旦口を噤み、視線を書類に落とした。
「何回かな。片付ける、というより散らかさねえように気をつけてみたことはあったんだが」
 この人の。こういうところって愛嬌だよなあとつくづく思う。相手が強硬な態度であればあるほどのらりくらりと受け流すくせに、こちらが一歩引くと、そのぶん埋め合わせようとするあたり。
「片付いた部屋はどうも落ち着かなくてな。ま、子供ン頃や即位前に比べりゃあ静かなもんだし、俺も慣れた方がいいんだろうが」
 さらさらと頬にかかる金糸を手櫛でかきあげながら。無造作に紡がれる言葉の連なりは、淡々としているだけに不吉だ。
「そのへんに何か転がしときゃ、咄嗟のとき武器になるだろ」
 思考が、止まる。
 咄嗟のとき、って。それは、つまり。
「陛下……、その」
「……なんてな?」
 にやりと。口の端を吊り上げたふてぶてし……いや、不敵な容相に、肩を落とす。
 そうだそうだそうなんだ。それが事実だろうが冗談だろうが、おそらくは冗談めかした事実なんだろうが、今ここで注意を促してなんとかなるものなら、とっくの昔にジェイドの旦那や或いはフリングス少将あたりがどうにかしていただろう。そう、俺ごときが……、ああそれとも、これは新参が必ず通る道なのか。タチ悪い。咄嗟の武器、だなんて、本当に。タチが悪いにも程があるだろ。
 逃げ場のない閉ざされた室だとか、無言の刺客だとか。応戦のための知恵だとか、あまつさえそれは経験則となるくらい繰り返しあったことなのだろう、とか。うっかり鮮明に思い浮かべちまった『咄嗟の事態』に、吐き気を覚える。この人がそんな目に遭ってきたことを思うと腑が煮えるようだし、それがこういう形で痕を残しているのは痛ましい。もし今そんなことが起きようものなら、俺は……。
 頭を振って、昏い思考を追い払う。
 それはともかく、いや、それならそれで。ひとつくらいは、譲って貰えないだろうか。
「とにかく、御璽だけは」
「善処しよう」
 
 なにかひとつだけ、というのは意外と盲点だったらしく。皇帝の懐刀から「快挙ですね」との言葉を賜ったのは、ちょいとした後日談。

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【あとがき】
陛下の部屋。きちんと掃除してくれる人がいるにも関わらず、アレってことは、わざとやっているというか一種の巣作りなんだろうなあと思うですよ。
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