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アスラン・ピオニー

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 なんというか、その、非常に困るのだ。

「なあお前もそう思うだろうアスラン」「よしよしアスラン、ちょっと待ってろな」「なんだアスラン、またジェイドにいぢめられたのか?」
 いかにも楽しげな声で紡がれる言葉は、私に向けられたものではない。そして『アスラン』だけでなく、ネフリーだとかサフィールだとかゲルダだとかそれこそジェイドだとか、そういう名前も万遍なく口にされるわけだが。
「ちょ、待て、それは駄目だアスラン」「あーもうアスラン、仕方ねえなあ」「アスラン、くくっ……くすぐってぇよ」
 とにかく、困る。心臓にも悪い。
 故意犯であらせられる陛下は明らかに楽しんでいらっしゃるし、その陛下の御前で一々……我が事ではなくブウサギの名前に反応して青くなったり赤くなったりというのは居た堪らない。だがしかし、それは不可抗力……致し方ないことだと思うのだ。
「いい子だ、アスラン」
 甘やかな囁きに、跳ねる心拍。このようなとき、この方の……凶器めいた美声がつくづく恨めしい。
 せめて私の与り知らぬところで……ああ、いや、私の与り知らぬところでも変わらぬ調子でブウサギたちと戯れておられるのだろうし、まして今は……『ブウサギと』と言うより『私で』遊んでいらっしゃる。
「アスラン?」
 きらきらと煌めく悪戯な……ひどく魅力的な瞳。
 野暮な軍人に、この手の遊戯は荷が重い。いやもう困る……心底困り果てているというのに、それでも……嬉しくないわけではないあたり。我知らず、つい口許を覆った手。それで隠したかったものは、御手上げの溜息か……喜悦の笑みか。まったく、我ながら度し難い。ブウサギに託けて呼ばれる我が名に、これほど心を擽られるなど。

 完全降伏、そのうえで敢えて言わせていただこう。
 この方の、このなさりようは、反則だ。

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あなたへとどく20のことば:02 そういうところが、ずるい
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