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ピオニー

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 掛け値なしに、可愛い奴だと思う。

 堆積した疲労にぐったりとソファへ身を沈めれば、俺の気分を察するように慎ましく傍らへと控え、手を伸ばせば躊躇いなく寄せられる頬。まるで、恭順を証しするように。
 けれど俺は知っている。こいつはこれで結構、気が強い。

「なあ。お前は今、幸せか?」

 肌触りを楽しみながらも、つい、そんな言葉が口を衝く。
 こいつが示す親愛の情、それを疑うわけじゃない。こいつは……俺が望む限り、俺の傍にいてくれるだろう。しかし本来、権謀渦巻く宮殿など、こいつのあるべき場所ではない。青い空と緑の大地、自由の風こそこいつには似合うと思うのだ。
 水簾の檻。俺の身勝手で此処に捕らえるというなら、いっそ。

「……結婚してくれないか」

 そう呟いてみても、応えはない。
 俺をひたと見上げる、その瞳が哀しいほど優しいばかり。
 天を仰いで、口の端を歪める。
 それが不可能であることくらい、判っている。ただ、そう、少し疲れているだけ。こいつは俺が無体を言っても、頭から否定したりはしない。それに甘えてみたかっただけ。
 さて、馬鹿な話はこれで終い。
 頭を少しばかり乱暴に撫でてやって立ち上がる。
 俺を振り仰いで揺れる、長い耳。ああほんと、愛い奴。

「お前がブウサギでなけりゃあな」

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あなたへとどく20のことば:12 さみしかったのかもしれない
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