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ガイ・ピオニー

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 どうしたものだろうかと、散々、悩んだことは悩んだのだ。

「珍しい格好をしているな、ガイラルディア」
 楽しげな声に、内心、軽く溜息をつく。
 立場的にというのもあるけれど、折角見栄えが良いんだから、どうせなら御自身を飾ってくれりゃいいものを。自分のことより他人に似合う衣装を見繕うのが好きな人なので、そう突っ込まれるんじゃないかと思わなくもなかったが。
「はい、この服に袖を通すのは初めてなので」
 とはいえ、今の姿は某アビスナントカのような、あからさまにツッコミ待ちというような衣装ではない。本当に俺がこの服を着ていいものかと悩んだ結果、単に自意識が過敏になっているだけなのだろうと思う。
 何しろ、この格好は。
「これからアルビオールでバチカルへ飛ぶので、その、セシル将軍にこの姿を見せておこうかと」
「……ああ、」
 理解の色が滲む声音。
 一瞬眇められた目。
 そこに映ったのは、きっと俺の姿じゃない。
 そう、この服は本来、俺が着るはずじゃなかったもの。俺と血の繋がりがある女性から託された、他に着るべき人がいた服。
 婚約の印というなら、もう少し華があっても良さそうなものを、妙に質実剛健というか、実用性が先に立っているあたり、ストイックで。あの白銀の髪の将軍に、よく似合ったろうと思う。再三だが、本当に悩んだのだ。特別な想いが込められた服を、着るのも着ないのも別の意味で悪い気がして。
 母方の従姉弟、とはいえその血縁関係をおおっぴらにするわけにもいかず、それとなく気に掛けていたセシル家の令嬢。けれど俺は、一個人としての彼女……『ジョゼット』をよく知っているわけじゃない。だから、
「この服を着ること、その姿を見せることが、彼女にとっていいことなのかどうか、人生経験の足りない俺には判りませんけど」
 なんとなく落ち着かない気分で襟元に手をやる。こうしてこの服を着ることが供養になればいいと思うし、着るなら一度、きちんと姿を見せておくのが筋であるとも思うのだが。そんな理屈で自分自身、納得できるかというと話はまた別で。この服を着るはずだった人と、袖振り合う縁があっただけに居た堪れない。
「まあ、いいんじゃないか」
 身の置き所がないような俺に向けられたのは、あっさりと無造作な、けれど温かみのある声と視線。
「あちらさんもクローゼットの肥やしをお前に渡したわけじゃねえだろ。それに、まだ癒えぬ傷が疼こうが、お前がそうやって気に掛けてくれること自体を素直に喜ぶと思うぜ」
「そう、思いますか?」
「ああ、思うな」
 判りきったことと言わんばかりの断定口調。
 陛下は機微に敏い人だ。この人がそう言うなら間違いはない。けれど何故こうもはっきり言えるのか。陛下は多分、セシル家の事情は承知している。ガルディオス家の俺を気にかけていてくれたことと同軸上で。ただ、彼女自身のことは、姿を見かけたことがあるかどうか……その程度だろうと思う。少なくとも俺より接点があるということはない、つまり俺より判断材料は少ないはず。それなのに。
「どうしてですか?」
 後学のためにもお聞きしたい。ただそれだけで、他意はなかった。けれどこれは、多分、失言。ほんの少しだけ苦味が混ざった曖昧な笑みに、それと悟る。
 それが正しいからではなく、俺が思い遣ったことそのものを「いいんじゃないか」と言ってくれた陛下。珍しい微笑。それこそまだ癒えぬ傷が疼くさまを糊塗したような。それでいていつも通りの気負いの欠片もない声で、この人は言う。

「アスランの選んだ女だからな」

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ガイの一人称ですけれど、これ、陛下とアスランの話のつもりです。
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