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ルーク・ミュウ・ピオニー

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「あ、ちょっと待てルーク」

 アルビオールを使い始めてから、ちょくちょく立ち寄るグランコクマ。その度に、なんだかんだで陛下のところへ顔を出すことが習慣になってしまったけれど、(マルクトの軍人や貴族であるジェイドやガイはともかく)俺がこう呼び止められるのは珍しい。
「……はい、なんでしょうか」
 少し首を傾げれば、水の都の皇帝陛下は、その御位にあるまじき気安さで、こいこいと手招きをする。
「ルーク、というよりミュウに見せたいものがあってな」
 そう言いながら書類の束から幾枚かの紙を抜き出したかと思うと、ぽんと俺に手渡した。
 陛下のところまで上がってくるような文書を俺が見てもいいのだろうかと戸惑いながらも目を走らせれば、
「これは……」
 地図? それに細かく書き込まれた数字。この場所は……
「エンゲーブの北の方……の……」
「みゅ?」
「これ……ミュウ、お前が燃やした森の、植林計画だ」
「みゅみゅ!」
 肩へとよじ登ってきたチーグルに、地図の要所を指し示す。
「百年かけて育った森を、おいそれと元には戻せない」
 静かな声に顔を上げれば、煌めく波頭もそのままに、海の色を宿した瞳。
「だが、約束しよう。あの森を、再びチーグルが棲む森に育てると」
「…………!」
 気負いない、けれど意思の滲む声に息を呑む。
 一拍おいて、ぞくぞくと、爪先から這い上るように鳥肌が立つ。
 権力を揮うということ。それは、人ひとりでは成し難い……こういうことをやってのけること。
「ま、ちいとばかりゴタゴタ続きで、遅れ気味なんだが」
 アクゼリュス崩落からキムラスカとの交戦、預言の廃止を経て今に至る一連の渦中にあって、どうしてこの人、それをちいとばかりなんて軽やかに言えるんだろう。一番重いところを支えている人なのに。
「もともとが聖獣の棲まう豊かな森だ。森の手前は里山として、奥の方は百年先を見越して手入れを始めている」
 百年先というその言葉には楽しげな響きすらも含まれていて。
「ミュウたちも手伝ってくれな」
 さらっと。今、この人さらっと『たち』って言った。
 その『たち』に含まれるのは、俺……もそうかもしれないけれど、多分チーグル一族を指す。
 人も、人以外も。なにもかもを呑み込む大きな渦に巻き込まれる感覚。その渦を生み、うねりを制御し、秩序をもたらすのは目の前の人。
 世界を変える……世界が変わる、その空気の揺らぎさえ肌に感じるような。今まさにその現場に居合わせているという実感に、煽られる意気。この人は、人の心に熱を灯す、それがとても上手いのだ。この人となら、どのような高みへでも翔ていける、そのような気すらする。はいですの頑張るですのと勢いよく身を乗り出したミュウに、こいつも同じものを感じているのかと、思わず漏れる苦笑。男ってきっと、女の子より単純なんだな。口に出したりしないけど、多分、ジェイドもガイも似たような理屈でこの人のもとにいる。
 でも、確かに、この人なら。超振動などに頼ることなく、言葉の通り、すべてを癒し育むのだろう。

 そう、俺の犯した罪の印、その傷痕さえ残さずに。

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あなたへとどく20のことば:04 きずあとさえのこさずに
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