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CAST:ティア・ピオニー・ジェイド
ティア、陛下のために譜歌を詠う の巻

ホドの血脈

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 グランコクマは、とても美しい街。宮殿の庭園をひとり、そぞろに歩きながらティアは思う。

 障気に覆われたユリアシティ。そこしか知らなかった目に、外郭大地の風景はどこもかしこも新鮮に映った。バチカルの天を突くような偉容も、タタル渓谷の花の香りも、エンゲーブ一帯の、ちょっと感動してしまうくらい豊かで見事な穀物畑も。
 そしてここグランコクマ。水の中に浮かぶという意味ではユリアシティと少し似ている。もしユリアシティが外郭にあったなら、このような街ではないかと、そう思ったことがある。外郭大地降下作戦をどうにか成功させた後、初めてアルビオールでユリアシティの上空を飛んだとき、海と空の青に映える白い建物はグランコクマを彷彿させ、誇らしい気持ちになったことも、ある。自覚めいたものはないけれど、これはホドの血が見せる郷愁、なのかもしれない。
「おや、来ていたのか」
 少し癖のある美声は、ここグランコクマ宮殿の主のもの。その庭先で、この声を聞いてもおかしくはない。
「はい、陛下」
 振り向きつつ、そう答えたものの。見慣れぬ皇帝然としたその御姿に、暫し言葉を失う。
 これは正装、なのだろうか。
 陛下の長身を包むのは、直線的なラインの、丈の長い純白の上衣。剣帯をアクセントにして、その裾は踵近くまである。肌を露出させない、禁欲的な襟の高さや袖の長さ。真珠のような光沢がある生地に、同色の糸で緻密に施された刺繍には、上品な重厚感がある。色味の違う領巾を十重二十重に重ねて襟元から長く前に垂らし、一番上には、長方形の金属片を縁に幾つもあしらった、青の肩掛け。耳や額に輝くのは白金と青い貴石の装身具。……ああ、王冠でなくサークレットということは、これでも、正式な装いというわけではないのかもしれない。
 軽装で、ブウサギと戯れていらっしゃる姿が印象的なだけに、何故このような格好をされているのか不思議に思わないわけではないけれど。それは自分が疑問に思うことではないと、姿勢を正す。
「大佐にはお会いしていませんか」
「いや。行き違ったかな? ……他の皆は」
「ルークとガイは、剣の稽古に。ナタリアとアニスはそのあたりにいるかと思いますけれど」
「そうか。……そういえば、二人で話をしたことはなかったか。良ければ少々、このオジサンに付き合ってくれないかな」
 磊落な陛下にオジサンという言葉は、似合うような似合わぬような。けれど、少なくともこのような格好をしているときは決定的に似合わない。この方は、皇帝たる姿を纏うとき、年齢や外見を超越して、人と言うよりは皇帝という名の生き物なのだろうなと思う。
 しかし、そんなことを言えるわけもなく。オジサンだなんてそんなと小さく呟けば、馴染み深い余裕の微笑。大佐も陛下も、こうやって人をからかうところは、とてもよく似ている。
「私でよろしければ」
 どうにかそれだけ言うと、陛下は視線だけで共に連れていた兵士を下がらせた。そして付いてこいと言うように、ゆったりと身を翻す。どこまで行くのだろうと不思議に思えば、距離にして数十歩。木陰だが見晴らしのよい、花壇の前で足を止めた。
 花壇といってもベンチを兼ねたような造りのそれは、適当なアールが付いていて、二人でゆったり座ると真正面でも真横でもなく、会話するのに丁度いい距離を演出する。陛下は肩の辺りから領巾を一枚引き抜いて座面に敷き、その対面に座った。そして戸惑う私に、どうぞとばかり、その領巾を示す。
 そのスマートな仕草に見惚れてばかりはいられない。気遣いは嬉しいが、本当にこのまま座っていいものか、迷う。いやでも陛下は女性に恥をかかせる方ではなし、と、思い切って、けれどその領巾に国旗などの意匠が描かれていないことだけ確認して腰掛けた。窺うように視線を送れば、にっこりと微笑まれたので、ひとまず気に病まないことにする。
 そして。改めて、こう面と向かうと。何と言うか……本当に見栄えのよい方だと思う。
 青に、白。マルクトを象徴するような色が、この上なくよく似合う。煌めくような金の髪と相まって、光のような方だとも思う。旅の間、この方に関する噂は各地で聞いた。そういえば、旅の始めでルークと一緒に乗った……乗り間違えた馬車の御者も、陛下の御名を口にしたとき、枕詞の如く『偉大なる』と付けていた。成程、泰然自若・威風堂々という風情の陛下は、確かに自国の王として掲げるに誇らしいだろう。ことによると、私も主と仰いでいたかもしれない、この方。
「どうした? この格好が珍しいのか、それとも俺に見惚れてくれているのか」
 目の前で、ひらっと振られた白手袋の指に、我に返る。 
 失礼しました、と慌てて頭を下げ、少し思い出したことがありまして、と続ける。
「ガイがガルディオス伯爵に叙された後、もし世が世なら、ガイをガイラルディア様と呼んでいたかもしれない、兄や私はフェンデ家の人間として、ガルディオス家に仕えていたかもしれないと……ガイと、そのような話をしました。今の陛下のお姿を拝見して、それを思い出しました。ガルディオス家を通じて、私はマルクトに……陛下にお仕えしていたかもしれないのだと」
 そのように答えれば、儀礼祭典の毎に堅苦しい格好をするのは肩が凝って仕方ないが、そう思って貰えるならば悪くはないかと、顎のあたりを撫でながら呟く。そして面白いことを思いついたとばかりに、
「ならば、マルクトに来るか?」
 あっさりと、本当にあっさりとこの方は言う。
「え、あの、私が……ですか」
「そうだ」
「そのっ、ガイとの話はその場の冗談です。私はそんなつもりでは」
「ホドに咲くはずだった魔界の花が、マルクトの皇帝と出会ったのは何かの縁だろう」
 畳みかけられる言葉に、頭の中が白くなりかける。いっそのこと悪意や下心、或いは任務や交渉事といったことが絡んでくれた方が、まだ対処しやすい。
「お言葉は嬉しいのですが、私は神託の盾の騎士。闘うことしか知らない身です」
「そうかな? そう言い切ってしまうのは、自ら己の可能性を潰しているとしか思えないがな。まあ、無理は言わんよ」
 含みなく軽やかなその言葉に、ほっと息をつく。意味が深いやら浅いやら……そのような言い回しは故意だと承知していても、居心地が悪い。
 けれど、陛下の言葉には考えさせられる。私が神託の盾の騎士を目指したのは、兄の役に立ちたかったから。それが一番大きな理由。そして、教官。あの人の強さや毅然とした姿勢に憧れて、己を高めたいと思った。研鑽を積んできた。そして今。私にはやるべきことがある。でも、それが終わったら?
「無理は言わんが、あと2・3年……それが2・30年となるかもしれないが、今いる場所でやるべきことをやり尽くしたと思ってから戻ってくるという手もあるのだし」
 この方は。どうしてこう、見透かすようなタイミングでこのようなことを仰って下さるのだろう。
「それはそれとして、というか、そのお試しというこで。今、ちょっと仕えてみる気はないか?」
「それは、どういう」
 首を傾げれば、陛下は軽く身を乗り出すようにして言を継ぐ。
「実は、ジェイドやイオン殿から、譜歌の話を聞いていてな。審美眼に難のあるジェイドの褒め言葉はともかく、イオン殿も懐かしい気がして好きだと仰っていた。それに、そのイオン殿の慰霊祭でも詠ったそうじゃないか。これは機会があったら是非一度聞いてみたいと、な」
「陛下にお聞かせするようなものでは……」
 大佐の『褒め言葉』が微妙に気になりつつ、そう断りを入れれば、恥じらいつつ謙遜する姿は初々しいが凛とした歌姫というのもさぞ美しかろうと思うんだがなと名調子。この方に口で敵うのは至難なのではないかと思う。詠うこと自体は嫌ではない。けれど譜歌は基本的に『聞かせる』ための歌ではないのだ。それで……それでもいいと言われれば、あまつさえ「俺のために詠ってくれないか」などと言われてしまえば、おとなしく観念するしかない。
 深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。背筋を伸ばして、顔を上げる。譜術を発動させるわけではないけれど、そのときと同様……それ以上に、一音一音丁寧に旋律を紡ぐ。
「トゥエ レィ ズェ クロア……」
 譜歌に合わせて、陛下はそっと目を閉じる。
 その静かな表情に、少しだけ心が揺れる。闊達な笑顔と強い磁力を持つ瞳が魅力的な方だけれど、こうしてまじまじと見ると、眼鏡を外した大佐に負けず劣らず、端正な……綺麗な貌をしていらっしゃる。そして、本当に年齢が判らない。少年のように見えることもあれば、玉座に在るときなど、お祖父様以上に老成して見えることもある。不思議な、方。
「クロア リュオ ズェ トゥエ……」
 こんなことを言うと、この方には「可能性を潰している」と言われるかもしれないけれど。やはり私は、自分が先頭に立つよりも、誰かの為に腕を揮うことに生き甲斐を見いだすタイプの人間だと思う。
「ヴァ レィ ズェ トゥエ……」
 清濁合わせての現実だと、そう、ずっと折り合いをつけてきた。教団での任務も、やりがいはあったと思う。けれど、兄の件に片が付いたら。私は、騎士を目指した意味を失う。そのとき、私はどうするだろうか。
「ヴァ ネゥ ヴァ レィ……」
 先のことは判らない。そう、明日のことすらも。ああ、陛下が仰ったのは本当に『可能性』の話。こういう道もあるのだと示して下さったのだ。私がこれから、どういう道を歩くのか。ユリアの末裔として、フェンデ家の一員として、神託の盾の騎士として、或いは私個人として。可能性なら、それこそ幾筋もあるのだと。
「リュオ レィ クロア……」
 ふと思う。堅固たる護り手、壮麗たる天使、そして覇者の天駆。譜歌の意味するこれらの言葉は、この方にも当てはまりそうで。それが、なんとなく擽ったいような、喜ばしいような。
「クロア リュオ クロア……」
 先のことは判らなくとも。ただ今は、心を込めて詠おう。もしかしたら『ありえた』未来を想って。兄や私が、仕えていたかもしれないこの方のために。
「……リュオ ズェ レィ ヴァ」
 第六音素譜歌まで、ゆったりと詠いあげる。今の私が詠えるのは、此処まで。
「いい声だ。それに、確かにこれは心地良い」
「少しは、その、ご希望に添えたでしょうか」
「ああ。ありがとう」
 飾らない言葉に、思わず笑みが零れる。喜んでいただけたなら、嬉しい。
 そのように思う自分に、我ながら些か驚く。
 ルークのように、言葉にするほどではない。けれど私もほんの……ほんの少しだけ、陛下のことは苦手に思っていた。ちょっとしたことで遊ばれるから、というなら、大佐も同じ。その大佐は特に苦手と感じないあたり、どうしてだろうと思っていたのだけれど。何故だか少し、判った気がする。嫌いではなく、むしろ好ましい。惹かれる、けれど苦手。それは、魔界育ちに、陽の光は眩しいだけのことなのだと思う。
 靄が晴れたような、目から鱗が落ちたような。
 そんなことをぼんやり考えていると、陛下はふと顔を上げ、見つかっちまったか、いや、あれはそれでも見計らってくれたのかと小さく笑う。それで大体、意味を察することはできるけれど。特殊な訓練を受けた私より先に気付くなんて、驚くほど気配に聡い。
 そして案の定。姿を現したのは、この方の懐刀。
「へーいか。お探ししましたよ。いい御身分ですねえ」
「おう。なにしろ皇帝という御身分だからな。羨ましかろう」
 陛下がそう太い笑みを浮かべれば、大佐も負けず劣らずにっこり笑う。
「ええ、ティアがとても羨ましいです。陛下を繋ぎ止めておけるなんて、ね」
「たっ、たたた、大佐っ」
 それこそ戯れているだけだと。判っていても、この大佐。なんて心臓に悪いことを言い出すのだろう。
「こちらの案件にも、みっちりお付き合い頂きますよ」
「あーあー判ってるって、ヤキモチ焼きのジェイド」
 立ち上がる所作に、青い肩掛けがふわりと翻る。それにつれて金属片が揺れ、風鈴のように涼やかな音を奏でる。
 ああティア、アニスとナタリアは資料室ですよという大佐の声に、有り難うございますと返しながら。この、後ろ髪を引かれるような名残惜しさや、仄かな胸の痛みは何なのだろうと不思議に思う。
 陛下が目の前を通り過ぎる、そのタイミングに合わせて踵を返す大佐。私も陛下を見送ろうと起立する。頭を下げようとしたそのとき、肩越しに振り返った陛下と目が合い、
「では。またな、メシュティアリカ」
 その一言と、とどめのような柔らかい微笑に思考が止まる。
 今、陛下は。私を、何て。
 一瞬の後、つい弛みそうになる口許を押さえ、どうしようもなく紅潮する頬を意識する。
 陛下はガイを、ガイラルディアと呼ぶ。それは知っていた。
 でも、これは。これは、反則。
 今となっては、兄だけがそう呼ぶ、私の名。
 その名で呼ばれる、ただそれだけで。認められ受け容れられたような、この誇らしさ。
 歩み去る後ろ姿に、心の内で白旗を揚げる。
 不思議な胸の痛みの正体を突き詰めると、それは多分、己が見込んだ主の元でその能力を遺憾なく揮う、大佐への嫉妬。陛下の歩みに、当然の如く付き従う大佐を羨ましいと、そう感じたのだと思う。

 ああ、でも。これでひとつ判った。
 どう格好つけようと、畢竟、ホドの血はお調子者の血。
 理由や思惑、それは色々あるだろうけど、とどのつまり。
 『ガルディオス伯爵』も、こうして陛下に陥落したのだ。


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【あとがき】
勝ち台詞の「美女軍団」でティアがマルクトにカテゴライズされていたのにうっかりときめいてしまったのが発端。ティアもガイと一緒に陛下の元で働いちゃってもよいではないかと思うです。
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