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CAST:ジェイド・ピオニー
ジェイド、だんまりを決め込む の巻

※秘預言が絡みます・御注意!

誓約の沈黙

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 人払いされた謁見の間。護衛の兵士も扉の外に置く今、水鏡の滝だけが涼やかな音をとめどなく紡ぐ。空と水とを映して青い空間は、一歩間違えれば寒々しい印象を与える要素を内包しつつ、不思議と明るい。
 そこに響く、主の声。
「まったく、頭の痛いことだな」
 障気問題、アクゼリュス・セントビナーの崩落、ルグニカ平野の会戦、大地降下、預言廃止、レプリカの処遇、プラネットストームの停止、そして新生ローレライ教団の台頭。どれひとつとっても、為政者としては致命傷になりかねない難事である。それらすべてを抱えてなお余裕を失わない我が主は、やはり規格外なのだろう。
「せめて人災は避けたかったんだが、起きちまったことは仕方ねえ。ひとまずエルドラント攻略はジェイド、お前たちに任せるとして。……こっちはこっちで建て直しにかかるぞ、ゼーゼマン」
「は」
 万感の思いをこめつつも短く応えた参謀総長に合わせて、私も軽く頭を下げる。
「人材、物資。あちらもこちらもカツカツだが、ひとまずは先立つもの、だな」
「今から特別枠の予算を組みますか」
「無理だ。アクゼリュスにセントビナー、エンゲーブが常時のように機能しない今、組めねえし間に合わんだろ」
「では……」
「国庫をあける」
「しかし、それは既に限界だと聞き及びましたが」
「ああ。今年度、そっちにはもう手を着けない。種籾は喰うべきじゃねえからな」
 一呼吸置いて、皇帝は軽く……それでいてどこか凄みのある声で宣う。
「裏の、だ」
「……裏?」
「俺様のヘソクリ」
 思わず呟けば、戯けた応え。陛下、と眉を顰める参謀総長に、この稚気溢れる皇帝は怖え怖えと全く堪えていない様子で首を竦めた。眉間の皺を揉み解しながらも、苦労性の上役は話を進める。
「陛下、カーティス大佐は」
「ん、あ。そうか。貴族院絡みの話だ、ジェイドは知らなかったか。ヘソクリっちゃあ……軍の意向が一切絡まない類の国家予算、と言えば察しがつくか?」
 帝政における皇帝、とはいえ。議会の承認なしで、国家予算に手を着けることはできない。あらかじめ組み込まれている予算、皇帝の一存で動かせるもの、といえば。
「陛下御自身に掛かる予算、ということですか」
「概ね正解。俺や、俺の奥さん……奥向きに掛かる金だな。今んとこ俺に妃はいねえし、俺に関して言えば必要なときに体裁がつく程度でいいからな。あとは、先代以前からなんだかんだと浪費されていた予算。つまりあれだ、花を摘むのに掛かる支度金とか、その類な。ごっそり削って、というか遣わないで貯め込んである」
 額面だけ見りゃ俺は歴代皇帝に引けを取らない金喰い虫だが、俺ほど金の掛からん皇帝ってのも珍しいんじゃねえか。そこそこで適当に格好のつく見栄えに産んでくれた母上に感謝だな。そんな身も蓋もない物言いに溜息をつく参謀総長は、なにやらお気の毒だ。
「まあ、それで一時は凌げるだろ。だが、俺が自分の裁量で遣える金とはいえ、動く額が額なだけに外聞としちゃ微妙だ。ということで、各地の知事と連携を計り、現場でうまいこと回るように遣い所の下調べと根回しを頼む。実際金を動かすのは試算を弾いてからだが、心得ておいてくれ」
「御意」
「頼んだぞ、ゼーゼマン」
 一礼して踵を返す参謀総長に続こうとすれば、お前は此処に残れと示された。視線だけで上役に断りを入れ、足を止める。
 参謀総長が退出するところまで見届けると、玉座に浅く腰掛けた皇帝は、だらしなく背凭れに身体を預け、溜息をつくように呟いた。
「即位して三年では、それほど貯まらなかったなあ」
 そんなはずはない。少なくとも、一般人なら一生かかっても使い切れない程度の額にはなるはずだ。
「冗談でしょう。一体どれくらい貯めるつもりだったんですか」
 呆れて問えば
「俺の民まるっと一年食わせるぐらい」
 皇太子時代から、俺個人の資産はちょこちょこ貯め込んでたんだが、立場が立場、あんまり大っぴらにはできんかったし。足りねえ足りねえ。
 そんな答えがさらっと返って絶句する。
「どうして、と。お伺いしても宜しいですか」
「備えあればウレシイナっていうだろ?」
 茶目っ気たっぷりに片目を閉じてみせてから、少しだけ表情を改める。
「俺も、今の事態を予測したわけじゃあないが。国政なんかに携わってっと、戦禍なんかとはまた別のキナ臭さを嗅ぎ取ることもあってな。で、何が起こるにせよ、予防線を張っときたかったんだよ。
 でもまあ俺の民は、一次産業従事者が圧倒的に多い。土地に根ざしたものは逞しいからな。たとえ天変地異が起ころうが指示系統がグダグダになろうが、季節が一巡りするくらい耐え切れば、気持ちをきっちり切り替えて持ち直すだろう、ってな。そんなわけで、目標ってか、最低ラインで一年分くらいは、な」
「……一国の王が金銭の流通を止めてしまうのは如何なものかと思いますが」
「実は、その一部はこっそりケセドニアに任せて利鞘を稼いでいたり」
 一応外部に知れたら具合が悪いんでこれは国家機密な。そう、くつくつと悪戯小僧のように笑う。
 その笑みは、次第に自嘲を含んだものに変わり、
「本当はも少しとっておきたかったんだが」
 そう、漏らす。
「どういう意味です?」
「……いや、なに」
 私の前では珍しい、のらりくらりと、酷く曖昧な、政治家の笑み。
「譜業や譜術、音機関の力が徐々に弱まるってんなら、最悪遷都も考えなきゃならんだろ。まーそれ以前の問題は山積みだし、そんな話になれば、それこそ何カ年かで予算組み直すっきゃねえし。あーついでに今言っとくが、その辺、譜業譜術まわりの智恵を借りっから。含んでおけよ頭担当」
 この話はこれで終い。そう言わんばかりに上体を起こし、膝の上で指を組む。
「ま、それはともかく。何かあったか、ジェイド」
「何か、とは?」
「何か、じゃねえだろ。お前最近、随分可愛いカンジだぞ」
「いやですねえ、そんな。光栄に過ぎて虫唾の走るようなことを」
 軽佻な科白に毒を返しながら、内心舌打ちをする。
「そうか? 今のお前は可愛く見えるんだかな。
 たとえば、そう、荷物を背負って崖っぷちをフラフラ歩く愚か者のような愛らしさだ」
 お前はさ、器用なようでいて案外隠し事は下手だよな。そう戯言を紡ぐ口調は如何にも楽しげ。しかし、瞳に浮かぶ強い光が、それが単なる軽口だということを否定する。
「……惑星預言、か」
 ぽつり、と。唐突に落とされた言葉。
 表情は巧く殺せたと思う。だが、それだけだ。
 こういう、話が飛躍するようでいて物事の核心を突く物言いは、この人の得意技。
 判っていても、毎回ぎくりとさせられる。
 惑星預言。そこにオールドラントの滅亡が詠まれていた、と。主君に対して報告すべき事項は、要点を纏めた形で奏上したが。その、職務的な義務を果たすと同等の重さで、其処に至る道筋……その細部の描写は細心の注意を以て避けた。だからこそこの人は、聞いたままを全て話せと、そう言いたいのだ。それは、判る。的確な判断のためには、正確な情報が必要だということも。しかし、それでも。告げるつもりは更々ない。そしてこの人も。
「ジェイド、お前はどう思う」
 私に話す気がないことを知っているからこそ、外堀を埋めるような聞き方をしてくるのだ。互いの思考パターンに慣れた相手は、このようなときほど厄介極まりない。
「惑星預言、というより。正直、私は預言自体、どうでもいいと思っていました。預言が成就しようがしまいが、どちらにせよ私は自分の仕事を全うするよう動くだけです。アクゼリュス崩落のとき然り、セントビナーのとき然り。なので私は預言を肯定も否定もしていませんでしたが……惑星預言に関しては」
 話さない、沈黙を守る。その代わり。
「……預言として詠まれた未来に、全力を以て牙を剥くと決めました」
 青い瞳を正面から捉える。
「ほう。別に意外でもないが、お前がそれだけ直截な物言いをするのは珍しいな」
「ま、やるべきことをやる、というのは、いつもと変わりませんが。生じたものは、いつか滅する。オールドラントも然り。けれど、それでも私は、そう……花より先に実のなるような、理屈に合わない不自然を許すことはできません。昔、痛い目に遭いましたからね」
 真実をも見透かせるのではないかと思うほど澄んだ瞳の持ち主は、一旦その瞼を閉じ、
「そうか」
 と短く呟いた。そしてヤレヤレと言わんばかりの、溜息。
「お前の頭は確かに取り柄でもあるんだが。頭のいい奴ってのは、サフィール然り、自己完結しちまいがちなんだよな」
「あれと同列扱いは甚だ不本意ですね」
 脊髄反射のようにそう応えれば、定型句だな、サフィールも報われないと小さく笑う。
「まあ、だからな。お前は人を頼ることを覚えろ」
「私は人使いが荒いと一部ではもっぱらの評判ですが」
「馬鹿。人を使うんじゃなくて頼れってんだよ。今なら丁度いいのがいるじゃねえか。ルークとか、ガイラルディアとか、可愛いお花ちゃんたちとか」
 陽気な語調でそんなことを宣い、一瞬、躊躇うように口を閉ざしたが。私が応えるより早く、玉座の主は言葉を継いだ。
「俺も、と言いたいところだが、すまんな。俺はまた、肝心なときに傍にいてやれないらしい」
 ぽつりと落ちた声は、重くなく軽くなく、色を持たず。しかしそれ故に胸へと浸透する。
「ネビリム先生の話を聞いたとき。何ができるってわけじゃあないが、それでも俺は、お前やサフィールの傍にいてやりたかった」
「何故、そのことを今」
「お前は……今のお前がネビリム先生の死を前にしたらこんな顔をするかもな、ってな、そんな顔をしている」
 差し伸べられた手……頬に触れた手は、体温以上に暖かい。そのまま自然に抱き寄せられて、昔のことを思い出す。
 嫌がるサフィールや、畏怖されていた私を。無造作に問答無用で抱きしめて笑った少年。彼によって、強引に引っ張る手も不思議と悪くないこと、くだらないことは意外と楽しいということを知った。
 そのときの面影を残したまま、この国の最高権力者は囁く。
「皇帝ってのは因果な商売だな。玉座から離れたいときほど離れられないようにできている」
 ああ。そんなあなただからこそ、私は尽くそうと思うのだ。肩口に一瞬、額を預けて。ゆっくり身を離し、静かに笑ってみせる。
「なにを仰るやら。あなたがそこに居なくてどうするんですか」
 そう、この人は皇帝だ。玉座は間違いなく彼のものであり、彼にこそ相応しい。
 なればこそ。我が身が続く限り、玉座を血で汚すことなど許しはしない。
「そこに居るからこそ、できることがあるでしょう」
「……ま、そうなんだがな。けれどやっぱり思うのさ、今度こそ助けてやりたいってな」
 口を開きかければ、人差し指の動きだけで黙れと伝えてくる。
「だから、頼れよ。今お前の傍にいる連中は、かなり面白いと思うぞ。お前とは違う考え方をして、お前に変な遠慮はしねえだろ」
「そんな相手は、あなた一人で充分なんですがね」
「俺とも違う。だから面白いんだろう」
 価値観の違う他者を受け容れる鷹揚。そしてそれを面白いと笑う余裕。
 幼馴染みの。それでいて王者以外の何者でもない笑み。今までこの笑顔に、どれだけ救われ、そしてそれ以上に翻弄されてきたことだろう。
「面白いといえば、導師イオンも。なかなか味があったよなあ、お二方とも、それぞれに」
 今度こそ、心臓を掴まれた気がした。
 お二方とも、それぞれ。
 私の知るイオン様は誕生して二年。陛下が帝位に就いたのは三年前。その陛下が、オリジナルのイオンを知っていても……人を見ることに長けたこの人が、二人のイオンを別人として認識していたとしても、おかしくはない。
 懐刀などと呼ばれてはいるものの、このようなとき。皇帝である彼一人が抱えているものの重みを思い知らされる。
 流石という誇らしさと、一抹の口惜しさ。
 そして、このタイミングでこの人が導師イオンの名を挙げた、その意味。
 幼い命を悼む、その気持ちはあるだろう。しかし今、鍵となるのはオリジナルの方だ。ヴァンに協力していたという、オリジナルイオンが知り得ただろうこと。それは。
 ……まさか、まさか。この人は、全てを。
 身銭を切るのはまだ早いと。それならば何時、遣うつもりで。天変地異、指示系統の乱れとは、それはつまり。
「……陛……下」
 思わず口をついて出た声は、情けないほどに掠れた。
 陛下は、笑う。
 この笑顔は武器だと、そう理解していても。我ながら可笑しいほど魅了される。
 この人の要求のまま、そして許容に甘え、すべてを晒してしまえれば、どれほど楽だろう。
 だが。口にしないと決めたのは、確定した未来を否定するための、無言の誓い。
 ぶちまけてしまいたい衝動を必死に堪え、唇を引き結ぶ。そんな私に対して、
「いつか、話してくれるか」
 と。散々揺さぶりを掛けておきながら、引き際のこの鮮やかさ。
 人を思うさま振り回すくせに、マルクトを象徴するような青い瞳は微塵の揺れも示さない。本当に狡い……酷い人。
 冷静に考えれば。一度漏れた情報は、いずれ必ず表に出る。純粋に情報だけ得たいのならば、私から引き出さずとも、それこそガイあたりに問い質せばいいだけのこと。この会話を私とする意味、それは「任せた」或いは……最悪、「気にするな」。
 そう思い至ると同時に、荒れ狂う絶望は波のように退いた。
 そしてそこに残るのは、酷く高揚した己。
 任せるなどと言われるまでもない。
 気にするなと言われる事態に、私がさせない。
 結局は、そう。やるべきことをやるだけなのだ。
 いかにも単純。いかにも明快。
 獰猛な笑みを隠すよう、足下に跪き、深々と頭を垂れる。
「預言を覆した暁には、笑い話をひとつ、ご披露しましょう」


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【あとがき】
な、なんだか難産なお話でした。高村光太郎さんの『人に』と椎名林檎さんの『闇に降る雨』が頭にあったこともあり、ジェイドが妙に熱い人です。それはまだいい(?)として、このネクロマンサー、隙あらば炎の守護聖様の如く陛下を口説こうとするのは……。もう、手綱を取るので精一杯……。
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