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■CAST:パーティメンバー・ピオニー
■ジェイド、初恋の君を語る の巻
■ジェイド、初恋の君を語る の巻
高窓の姫君
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「陛下の初恋はネフリーさんなんだよな。じゃ、ジェイドは?」
マルクト皇帝ピオニー九世陛下の初恋のお相手は、ケテルブルグの知事にして死霊使いの妹君。そうさらっと暴露したのは他ならぬ『お相手』の実兄だったりしたわけだが。じゃあアンタは、と誰もが思いつつも口にできかったことを、よりによって当のジェイドとピオニーの前でぶちかましたのは、人払いされているバチカル城の謁見室へファブレ家子息という身分と権力を笠にずかずかと乗り込んでいった過去を持つ強者。無知は力なりと呆れ半分賞賛半分の空気が漂うなか、ピオニーは幼馴染みの気安さで茶々を入れた。
「血管に氷水が流れてるような奴に、初恋だなんて甘酸っぱい経験があるもんかい」
「随分なお言葉ですねえ」
ひらひらと手を振るピオニーを軽く睨む。続けて何か言いかけたジェイドは一旦言葉を切り、
「……ありますよ、それくらい」
結局、そう答えた。
「えーでも大佐。大佐とコイバナってあんまり結びつかないってゆーかぁ。ここでどんな人、って聞いても「秘密ですv」で終わっちゃいそうですよねー?」
きゃらきゃらっとした声で、じんわり退路を潰しに掛かったアニスに、ガイはだから女は怖えんだよと小さくぼやく。ジェイドは、まあ御期待通り「秘密ですv」でもいいんですけどねえと眼鏡を直しながら、おおっぴらに、或いはこっそりと期待に満ちた眼差しを向けてくる少年少女に苦笑する。
「……夢のような美少女でしたよ」
「「「えええっ!」」」
驚くような答えではないが、『ジェイド』がそう答えたことに皆思わず声を上げた。そしてその驚きの声の中には意外な人物のものも混ざっており、その声の主に視線が集まった。
「美少女って、お前。……先生じゃなかったのか」
思わずというようなその呟きに、幼馴染みが失礼な冗談でこの話題を有耶無耶にしようとした理由に思い当たったジェイドは、瞳の奥で微笑んだ。まったくこの人は図太いようでいて、変なところでセンシティヴだ。気を遣う必要はないのだと、殊更、師の名前を口にする。
「ネビリム先生は確かに美しい方でしたし、今でも尊敬していますけれど。恋していたわけではありませんよ」
「……そうか。お前やサフィールは、てっきり先生が好きなんだと思っていた。まあ、色恋はともかく俺も好きだったけどな、先生。……でも、だとすると、誰だ?」
ケテルブルグは美人の産地だが、美少女ねえ……っても、ネフリーじゃないだろ。ぱっと思い当たる節はねえが、俺がケテルブルグに行く前か、それともお前がカーティスの養子になった後のことか、と顎を撫でながら首を傾げるピオニーに、アニスやナタリアは陛下も御存知ないなんて、と残念そうに呟く。
手で口許を覆い、一瞬視線を彷徨わせたジェイドは、別に隠すことでもありませんから話しても構いませんがねと前置きし、表情の読めない笑顔を作った。
「あれは、そう。高窓の姫君、とでも言うべきでしょうか……
……独り、夜道を歩いていた。
どういう経緯で子供一人、夜歩きをしていたのか。
記憶にはないものの、あまり愉快な状況ではなかった筈だ。
ケテルブルグでは常である、小雪が舞い、それが全ての音を吸い込んで降り積むような、そんな夜。
何かが軋む音に振り仰ぐと、其処……灯り取りのような小窓が開き。姿を見せたのは一人の少女。
その窓は結構な高さにあり、光源も道端の仄かな音素灯と雪明かりだけしかないにも関わらず。何故か、繊細な睫毛の一本まで、鮮明に見て取れた。
端正な小作りの顔に、潤みを湛えた大きな瞳。ショールを纏い、窓から精一杯身を乗り出すようにして、雪が沈んでくるような空をひたむきに見上げていた。
細い顎、絹糸のような髪のせいか、ひどく儚く華奢に見え……、しかし凛とした意志の強さも窺えて。毅然と咲く一輪の花、そのような印象なだけに、ケテルブルグの凍てつく夜は、花の如き彼女の身を苛むのではないかと。灯りの点らぬ室、焦がれるようにのばされた首、呼気の白さの侘びしさ寒々しさ。自分はそれを……不思議に痛む胸の前で拳を握り、ただ仰ぎ見つめることしかできなかった。
……いやあ、物語に描かれるような、無彩色のなか其処だけ色づいて見えることが本当にあるのだと、まあ新しい理論の着想を得たときなど、そのように感じることもありますが、それを人に対して、この私が体験するなど……思ってもみませんでしたねえ」
「嘘だろジェイドがそんなベタな……っ」
「まあまあまあまあ! なんて素敵!」
ルークは思わず叫び、ナタリアは目を輝かせた。なんとなーくオチが読めたガイとアニスは微妙に視線を泳がせ、オチ担当は今にも血を吐きそうな笑顔のまま固まっている。
「それで、その方は……?」
「高窓の姫君は、手の届かない憧れだから美しいのですよ、ティア。ですよねえ、へ・い・かv」
「それがタチの悪い冗談であることを切に願って已まない朕である。……なあ、我が友よ?」
「本当にタチの悪い冗談ですよねえ。ネビリム先生の教室で再会したとき、自分に向けられた笑顔に舞い上がり、それが少年だと知って奈落に突き落とされ、あまつさえ痛い目に遭っただなんて」
「お前が人形のよーに無表情なもんだから、ちいとばかり頬を引っ張っただけじゃねえか!」
ココロの準備ができていた者はヤレヤレと首を振り、やっと事情を理解した面々は、揃いも揃って肩を落とした。ああ、本当に、夢だから美しいことって、ある。
「健気で物静かで触れてはならぬほど気高く見えた人が、傍若無人で騒々しく目に留まるもの全てにちょっかいを出さねば気が済まない人だったなんて詐欺ではありませんか?」
「俺様の場合、天衣無縫・明朗快活・好奇心旺盛なだけだ!」
眼鏡はきちんとかけた方がいいジェイドもジェイドだが、それを自分で言うか普通。喉元まで出かかった言葉を不敬罪不敬罪と呪文で封じる者、若干名。
「雪の上に『絵』を描こうと誘われたときは絶望がどういうものか味わいましたし」
「いや待てそれは男たるもの、広大な白いキャンバスを見たらやらずにはおれないだろう!」
なんとなく碌でもないことだと察しつつ、頭の上に疑問符を浮かべたナタリアとティアに、ガイは知らなくていいと力なく首を振る。まったくこのオッサンども。
「それでも、ふとした拍子に。粉砂糖をまぶしたようにきらきら光る、さらさらふわふわの髪に、ケテルブルグでは滅多にお目にかかれない天上の青、澄み切ったセレスティブルーの瞳に、舐めたら蜂蜜のように甘そうな肌の色に……そう、ネフリーと顔を見合わせて穏やかに微笑んでいるときなど美少女二人に見えて仕方のない腐ったこの眼を何度抉ろうかと……そう思いつめたことなんて、ええ、ちッとも恨んでませんともv」
(なんかさ。内容的にはどっちかってーとジェイドの恥ずかしい話のような気がするんだけどさ?)
(だよなあ。流石旦那、聞いてる方が居た堪らないなんてな)
(てか、どこまで本当なんだかもあやしーよね。大佐の話だし)
(そ、そうね……大佐ですものね)
(でも出会いとしてはかなりロマンティックではなくて?)
(……陛下相手でも?)
(うっ……それは……ちょっと……)
(ああ、あまり詳しく想像したくねえよな)
(ま、まあ陛下の場合、造りが良いことには変わりないんだから、女の子みたいに可愛かったってセンはアリなんじゃないかな)
(可愛いこと自体は、それはいいと思うけど)
(でもねえ)
(でもなあ)
ひそひそひそひそ。
微妙に遠巻きに、取り残された年長者ふたりは、片やぐったり、片やにっこり。
テーブルに伏して頭を抱えた『ぐったり』は、片目だけで幼馴染みを見遣る。傍目には心底疲れて見えるその様子とは裏腹の、悪戯な表情。唇を笑みの形に歪め、傍らに立つ男だけに聞こえる声で、ぽつりと囁く。
「嘘吐き。いや、ペテン師か?」
そう、あのとき。屋敷の窓から見た少年の姿。それは少なくとも、その少年との初めての出会いではない。まったくこいつは、『話さない部分』の選り分けが巧く、満更嘘ばかりでもないあたりが小器用だ。
昔と変わらぬ煌めくような色の瞳に、その懐刀は、意地の悪い微笑を湛えたまま、心底楽しげな声で「心外ですねえ」とだけ応えた。
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【あとがき】
微妙にシモネタ混じりで大変失礼しました(でも私の脳内の陛下はこんな人……)。
結局想像の余地を残して纏めましたが、この二人の一番最初の出会いは、なんとなく形にしたくないというか、形にして固定するよりは頭の中で色々想像して楽しみたいというか。大人な二人は勿論大好きですが、そのバックボーンになる幼少期も凄く気になります。
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「陛下の初恋はネフリーさんなんだよな。じゃ、ジェイドは?」
マルクト皇帝ピオニー九世陛下の初恋のお相手は、ケテルブルグの知事にして死霊使いの妹君。そうさらっと暴露したのは他ならぬ『お相手』の実兄だったりしたわけだが。じゃあアンタは、と誰もが思いつつも口にできかったことを、よりによって当のジェイドとピオニーの前でぶちかましたのは、人払いされているバチカル城の謁見室へファブレ家子息という身分と権力を笠にずかずかと乗り込んでいった過去を持つ強者。無知は力なりと呆れ半分賞賛半分の空気が漂うなか、ピオニーは幼馴染みの気安さで茶々を入れた。
「血管に氷水が流れてるような奴に、初恋だなんて甘酸っぱい経験があるもんかい」
「随分なお言葉ですねえ」
ひらひらと手を振るピオニーを軽く睨む。続けて何か言いかけたジェイドは一旦言葉を切り、
「……ありますよ、それくらい」
結局、そう答えた。
「えーでも大佐。大佐とコイバナってあんまり結びつかないってゆーかぁ。ここでどんな人、って聞いても「秘密ですv」で終わっちゃいそうですよねー?」
きゃらきゃらっとした声で、じんわり退路を潰しに掛かったアニスに、ガイはだから女は怖えんだよと小さくぼやく。ジェイドは、まあ御期待通り「秘密ですv」でもいいんですけどねえと眼鏡を直しながら、おおっぴらに、或いはこっそりと期待に満ちた眼差しを向けてくる少年少女に苦笑する。
「……夢のような美少女でしたよ」
「「「えええっ!」」」
驚くような答えではないが、『ジェイド』がそう答えたことに皆思わず声を上げた。そしてその驚きの声の中には意外な人物のものも混ざっており、その声の主に視線が集まった。
「美少女って、お前。……先生じゃなかったのか」
思わずというようなその呟きに、幼馴染みが失礼な冗談でこの話題を有耶無耶にしようとした理由に思い当たったジェイドは、瞳の奥で微笑んだ。まったくこの人は図太いようでいて、変なところでセンシティヴだ。気を遣う必要はないのだと、殊更、師の名前を口にする。
「ネビリム先生は確かに美しい方でしたし、今でも尊敬していますけれど。恋していたわけではありませんよ」
「……そうか。お前やサフィールは、てっきり先生が好きなんだと思っていた。まあ、色恋はともかく俺も好きだったけどな、先生。……でも、だとすると、誰だ?」
ケテルブルグは美人の産地だが、美少女ねえ……っても、ネフリーじゃないだろ。ぱっと思い当たる節はねえが、俺がケテルブルグに行く前か、それともお前がカーティスの養子になった後のことか、と顎を撫でながら首を傾げるピオニーに、アニスやナタリアは陛下も御存知ないなんて、と残念そうに呟く。
手で口許を覆い、一瞬視線を彷徨わせたジェイドは、別に隠すことでもありませんから話しても構いませんがねと前置きし、表情の読めない笑顔を作った。
「あれは、そう。高窓の姫君、とでも言うべきでしょうか……
……独り、夜道を歩いていた。
どういう経緯で子供一人、夜歩きをしていたのか。
記憶にはないものの、あまり愉快な状況ではなかった筈だ。
ケテルブルグでは常である、小雪が舞い、それが全ての音を吸い込んで降り積むような、そんな夜。
何かが軋む音に振り仰ぐと、其処……灯り取りのような小窓が開き。姿を見せたのは一人の少女。
その窓は結構な高さにあり、光源も道端の仄かな音素灯と雪明かりだけしかないにも関わらず。何故か、繊細な睫毛の一本まで、鮮明に見て取れた。
端正な小作りの顔に、潤みを湛えた大きな瞳。ショールを纏い、窓から精一杯身を乗り出すようにして、雪が沈んでくるような空をひたむきに見上げていた。
細い顎、絹糸のような髪のせいか、ひどく儚く華奢に見え……、しかし凛とした意志の強さも窺えて。毅然と咲く一輪の花、そのような印象なだけに、ケテルブルグの凍てつく夜は、花の如き彼女の身を苛むのではないかと。灯りの点らぬ室、焦がれるようにのばされた首、呼気の白さの侘びしさ寒々しさ。自分はそれを……不思議に痛む胸の前で拳を握り、ただ仰ぎ見つめることしかできなかった。
……いやあ、物語に描かれるような、無彩色のなか其処だけ色づいて見えることが本当にあるのだと、まあ新しい理論の着想を得たときなど、そのように感じることもありますが、それを人に対して、この私が体験するなど……思ってもみませんでしたねえ」
「嘘だろジェイドがそんなベタな……っ」
「まあまあまあまあ! なんて素敵!」
ルークは思わず叫び、ナタリアは目を輝かせた。なんとなーくオチが読めたガイとアニスは微妙に視線を泳がせ、オチ担当は今にも血を吐きそうな笑顔のまま固まっている。
「それで、その方は……?」
「高窓の姫君は、手の届かない憧れだから美しいのですよ、ティア。ですよねえ、へ・い・かv」
「それがタチの悪い冗談であることを切に願って已まない朕である。……なあ、我が友よ?」
「本当にタチの悪い冗談ですよねえ。ネビリム先生の教室で再会したとき、自分に向けられた笑顔に舞い上がり、それが少年だと知って奈落に突き落とされ、あまつさえ痛い目に遭っただなんて」
「お前が人形のよーに無表情なもんだから、ちいとばかり頬を引っ張っただけじゃねえか!」
ココロの準備ができていた者はヤレヤレと首を振り、やっと事情を理解した面々は、揃いも揃って肩を落とした。ああ、本当に、夢だから美しいことって、ある。
「健気で物静かで触れてはならぬほど気高く見えた人が、傍若無人で騒々しく目に留まるもの全てにちょっかいを出さねば気が済まない人だったなんて詐欺ではありませんか?」
「俺様の場合、天衣無縫・明朗快活・好奇心旺盛なだけだ!」
眼鏡はきちんとかけた方がいいジェイドもジェイドだが、それを自分で言うか普通。喉元まで出かかった言葉を不敬罪不敬罪と呪文で封じる者、若干名。
「雪の上に『絵』を描こうと誘われたときは絶望がどういうものか味わいましたし」
「いや待てそれは男たるもの、広大な白いキャンバスを見たらやらずにはおれないだろう!」
なんとなく碌でもないことだと察しつつ、頭の上に疑問符を浮かべたナタリアとティアに、ガイは知らなくていいと力なく首を振る。まったくこのオッサンども。
「それでも、ふとした拍子に。粉砂糖をまぶしたようにきらきら光る、さらさらふわふわの髪に、ケテルブルグでは滅多にお目にかかれない天上の青、澄み切ったセレスティブルーの瞳に、舐めたら蜂蜜のように甘そうな肌の色に……そう、ネフリーと顔を見合わせて穏やかに微笑んでいるときなど美少女二人に見えて仕方のない腐ったこの眼を何度抉ろうかと……そう思いつめたことなんて、ええ、ちッとも恨んでませんともv」
(なんかさ。内容的にはどっちかってーとジェイドの恥ずかしい話のような気がするんだけどさ?)
(だよなあ。流石旦那、聞いてる方が居た堪らないなんてな)
(てか、どこまで本当なんだかもあやしーよね。大佐の話だし)
(そ、そうね……大佐ですものね)
(でも出会いとしてはかなりロマンティックではなくて?)
(……陛下相手でも?)
(うっ……それは……ちょっと……)
(ああ、あまり詳しく想像したくねえよな)
(ま、まあ陛下の場合、造りが良いことには変わりないんだから、女の子みたいに可愛かったってセンはアリなんじゃないかな)
(可愛いこと自体は、それはいいと思うけど)
(でもねえ)
(でもなあ)
ひそひそひそひそ。
微妙に遠巻きに、取り残された年長者ふたりは、片やぐったり、片やにっこり。
テーブルに伏して頭を抱えた『ぐったり』は、片目だけで幼馴染みを見遣る。傍目には心底疲れて見えるその様子とは裏腹の、悪戯な表情。唇を笑みの形に歪め、傍らに立つ男だけに聞こえる声で、ぽつりと囁く。
「嘘吐き。いや、ペテン師か?」
そう、あのとき。屋敷の窓から見た少年の姿。それは少なくとも、その少年との初めての出会いではない。まったくこいつは、『話さない部分』の選り分けが巧く、満更嘘ばかりでもないあたりが小器用だ。
昔と変わらぬ煌めくような色の瞳に、その懐刀は、意地の悪い微笑を湛えたまま、心底楽しげな声で「心外ですねえ」とだけ応えた。
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【あとがき】
微妙にシモネタ混じりで大変失礼しました(でも私の脳内の陛下はこんな人……)。
結局想像の余地を残して纏めましたが、この二人の一番最初の出会いは、なんとなく形にしたくないというか、形にして固定するよりは頭の中で色々想像して楽しみたいというか。大人な二人は勿論大好きですが、そのバックボーンになる幼少期も凄く気になります。
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