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■ジェイド・ピオニー
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『よう、ジェイド。
相変わらず世に憚ってるか?
ケテルブルグはいつも通りの雪だ。
俺もまあお前の知るいつも通りだけれど、そういやこの前、子供のブウサギに触った。いやもう、あれ、すんげー可愛いのな! ブウサギは(主に食べる方向で)好きだったけど、ちょっと食えなくなりそうだ。や、まあ食うけどな。食うけど、触った奴は食えないよなあ。まだちっちゃくて……子供の体温は高いって言うけど、ブウサギもそうなのかな、信じられないくらい暖かいし、結構賢いらしくて、どうも人を見分けてる。あ、このまえの人、って言うみたいに尻尾を振りながら擦り寄られて、あまつさえ濡れたような瞳で見上げられた日には降参するしかない。ネフリーが首に赤いリボンを巻いてくれたんだけど、それがまた似合うのなんの! そのブウサギも食用ってことだったけど、犬とか猫のように飼っても楽しそうだ。流行らないかな、飼いブウサギ。
あ、ネフリーっていえば、俺はともかく、ネフリーにはちゃんと返事を書けよ。名前は変わっても妹なんだから。
手紙もそうだけど、折を見て会いに来い。ネフリー、ってか、女の子っちゃあ凄いな。もともとネフリーは可愛いけれど、なんだか日に日に綺麗になる感じで、お前もきっと驚くぞ。だから、帰ってこいよ。……どういう顔して会ったらいいのか、なんてうだうだ考える前にさ。ネフリーはとても勘がいいけど、それと同じくらい、お前とは違う方向に頭がいい。もう、ぬいぐるみを見て怯えることもない。だから。
そうそう、最近、体術を習ってる。護身術は一通り身につけてはいるけれど、もう少し本格的なやつ。なかなか便利だし、性分に合ってるのか、結構楽しい。今度会うときは聞いて驚け見て笑えな必殺技を披露しよう。楽しみにしているように。
それと、というか実は本題なんだけど、考えてみたら、この手紙がお前の手元に届く頃には、もう当人に会っているかもしれないんだよな。……って言えば判るか? より設備の整ったところで研究したいって言ってたけど、やっぱり本音のところではお前を追いかけたかっただけなんだと思う。まあでも、動機はさておき、奴の才能は本物だからな。俺も奴の都行きには賛成した。ということで、奴もそっちに行ったから宜しくな。軍、しかも研究所じゃ、機密保持から手紙とかも奴には送りにくいし、ちょっと気に掛けてやってくれると嬉しい。
じゃ、またな。苛めるのもほどほどにしといてやれよ?』
(まったく、こんな抜け道ばかり詳しいってどうなんだ)
確かに研究所は、手紙のやりとりを含めて、外部との接触に煩い。但し、慣例として『身内』からの手紙には多少甘くなっているようだ。そしてネフリーからの手紙には、ほぼ毎回、繊細な妹の手癖とは明らかに違う闊達な文字が連ねられた……署名のない便箋が混ざっていて。
(あの馬鹿、)
なんの変哲もない白い紙にインクの墨。
だというのに、そこに浮かんで見えるのは。
記憶に焼き付き色褪せぬ、輝くばかりの青と金。
(どうあっても忘れさせてくれないらしい)
(忘れるつもりもないんだけれど)
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あなたへとどく20のことば:09 わすれてなんかあげない
『よう、ジェイド。
相変わらず世に憚ってるか?
ケテルブルグはいつも通りの雪だ。
俺もまあお前の知るいつも通りだけれど、そういやこの前、子供のブウサギに触った。いやもう、あれ、すんげー可愛いのな! ブウサギは(主に食べる方向で)好きだったけど、ちょっと食えなくなりそうだ。や、まあ食うけどな。食うけど、触った奴は食えないよなあ。まだちっちゃくて……子供の体温は高いって言うけど、ブウサギもそうなのかな、信じられないくらい暖かいし、結構賢いらしくて、どうも人を見分けてる。あ、このまえの人、って言うみたいに尻尾を振りながら擦り寄られて、あまつさえ濡れたような瞳で見上げられた日には降参するしかない。ネフリーが首に赤いリボンを巻いてくれたんだけど、それがまた似合うのなんの! そのブウサギも食用ってことだったけど、犬とか猫のように飼っても楽しそうだ。流行らないかな、飼いブウサギ。
あ、ネフリーっていえば、俺はともかく、ネフリーにはちゃんと返事を書けよ。名前は変わっても妹なんだから。
手紙もそうだけど、折を見て会いに来い。ネフリー、ってか、女の子っちゃあ凄いな。もともとネフリーは可愛いけれど、なんだか日に日に綺麗になる感じで、お前もきっと驚くぞ。だから、帰ってこいよ。……どういう顔して会ったらいいのか、なんてうだうだ考える前にさ。ネフリーはとても勘がいいけど、それと同じくらい、お前とは違う方向に頭がいい。もう、ぬいぐるみを見て怯えることもない。だから。
そうそう、最近、体術を習ってる。護身術は一通り身につけてはいるけれど、もう少し本格的なやつ。なかなか便利だし、性分に合ってるのか、結構楽しい。今度会うときは聞いて驚け見て笑えな必殺技を披露しよう。楽しみにしているように。
それと、というか実は本題なんだけど、考えてみたら、この手紙がお前の手元に届く頃には、もう当人に会っているかもしれないんだよな。……って言えば判るか? より設備の整ったところで研究したいって言ってたけど、やっぱり本音のところではお前を追いかけたかっただけなんだと思う。まあでも、動機はさておき、奴の才能は本物だからな。俺も奴の都行きには賛成した。ということで、奴もそっちに行ったから宜しくな。軍、しかも研究所じゃ、機密保持から手紙とかも奴には送りにくいし、ちょっと気に掛けてやってくれると嬉しい。
じゃ、またな。苛めるのもほどほどにしといてやれよ?』
(まったく、こんな抜け道ばかり詳しいってどうなんだ)
確かに研究所は、手紙のやりとりを含めて、外部との接触に煩い。但し、慣例として『身内』からの手紙には多少甘くなっているようだ。そしてネフリーからの手紙には、ほぼ毎回、繊細な妹の手癖とは明らかに違う闊達な文字が連ねられた……署名のない便箋が混ざっていて。
(あの馬鹿、)
なんの変哲もない白い紙にインクの墨。
だというのに、そこに浮かんで見えるのは。
記憶に焼き付き色褪せぬ、輝くばかりの青と金。
(どうあっても忘れさせてくれないらしい)
(忘れるつもりもないんだけれど)
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あなたへとどく20のことば:09 わすれてなんかあげない
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