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雪国組幼少期
※微妙に女性向け(?)につき御注意下さい

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ジェイドおたおめ! なココロイキだったのですが。
タイムアウトぎりぎりで、やっつけになりました……。
さらっと流していただけると嬉しいです。

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「なあ、サフィール。この22の日って、ジェイドの誕生日なんだってな?」
 そうピオニーが僕に話を振ったのは、シルフリデーカンも半ばを過ぎた頃のことだった。
「そうだけど。……ピオニー、どうして知ってるの」
「ネフリーに聞いた。んで、お前がなんかやるなら一口乗せて貰おうと思って」
 ピオニーの、こういう暢気なところを見るにつけ、これが本当に『悲劇の皇子』なのかと疑問に思う。
「……特になにもやらないよ」
「え、そうなのか。意外だな」
「ジェイド、そういう子供っぽいこと好きじゃないもの」
 そんなことも判らないのだろうか。
 優越感に軽く顎をあげて、更に言を継ぐ。
「僕もお祝いくらいは言いたいんだけどね。誕生日なんてただ単に生まれた日に過ぎないでしょ」
「って、去年だか一昨年だか、ジェイドに言われたわけだ」
「…………」
 面白くない。口を噤めば、ピオニーは独り言のように呟いた。
「まあ、この際、ジェイドの意志はあんまり関係ないんだけどなー」
「え?」
「誕生日は、本人がどうというより、周りの連中が祝いたくて祝うものだろ」
「そんな、それで嫌な顔されるようなことをしたって、意味ないじゃない」
「そこはそれ、やりようってものがさ……」
 適当に会話を続けながら、ピオニーは既に何か思案し始めたようだった。

 だから、当日。
 当然何かやらかすだろうと思っていた、けれど。予想に反して、何事もなく授業は終わった。
 そしていつもと変わりなく、取り立てて用があるわけでもないけれど、別行動する予定もないから、なんとなく一緒にいる……そんな雰囲気で教室のドアを開けたジェイドとピオニーの姿に、慌てて本を片付ける。なにかやる、のは、ジェイドの家でだろうか。それとも帰り道……。そんなことを考えながら、少し離れて後を追う。
「うわ、寒っ」
 外に出た途端、ピオニーは首を竦めた。
「……ジェイド。そのマフラー、暖かそうだなあ」
「家に忘れてきたお前が悪い」
「いーなー、暖かそうだなー…あ、やっぱ暖かい」
「判った。貸すから懐くな」
 ピオニーって、どうしてこう、傍若無人なんだろう。羨ましくなんかないけど、ジェイドに迷惑を掛けるのはどうかと思う。
「あーそうそうジェイド。公園に寄ってくれないか?」
 ある意味、このマイペースは皇子っぽいのかもしれない。……ピオニーの場合、貴人の我儘とは何かちょっと違うような気もするけれど。
「勝手に寄っていくといい」
「そう言うなって。ネフリーが待ってるんだからさ」
「ネフリーが?」
 そうして足を向けた公園に着くと、ピオニーは、かまくらの中にちょこんと座ったネフリーを目敏く見つけて、彼女の名前を呼びながら大きく手を振った。
 その呼び声に応えて、駆け寄るネフリー。その手にはふわふわのマフ。そして一瞬、ピオニーと視線を合わせると、ジェイドの前で、手に持っていたものをぱっと広げた。マフだと思っていたものは大判のマフラーだった。ネフリーはピオニーの手を借りて、ジェイドの首にそれを巻く。
「おにいさん」「ジェイド」
「「誕生日、おめでとう!」」
「!」



 きらきらした瞳のネフリー。ジェイドは途方にくれたようにピオニーを見遣る。ピオニーは何を言うでもなく、にんまり笑って幽かに頷いた。それを受けて、ジェイドは視線をネフリーに落とし、ぎこちなく、それでも確かにありがとうと呟いた。
 ネフリーはそんなジェイドの反応を見て取ると、大きく息を吸い込んで、溢れる気持ちを発散させるようにたーっと駆けだした。ジェイドから「ありがとう」と言われたことが、よほど嬉しかったのだろう。
 ジェイドは、というと。ネフリーが傍を離れた隙に、ひとつ大きな溜息をついた。
「ピオニー」
「ん?」
「これは、なんだ」
「なにって。マフラー」
「そうじゃない」
 眉間に皺を寄せたジェイドに、ピオニーは口の端を上げた。
「流石ネフリー、目が高いよなあ。手触りも良いし、抜群に暖かいだろ。それにお前によく似合ってる」
「目が高いって。高いのは値段だろ。少なくとも、ネフリーの小遣いで買える品じゃない」
「ここ何日か、いつもよりネフリーが一生懸命、家の手伝いをしているところを見なかったか?」
「……それで追いつく額じゃないだろ」
「野暮だな。ネフリーと、ネフリーの意を酌んだ親父さんお袋さんからの贈り物ってことでいいじゃねえか」
 この話はこれでお終い。そう示すように、ピオニーは肩を竦めてみせた。
「で、俺からもあるんだけど。キスをもうひとつとチョコレート、どっちがいい?」
「チョコレート」
「うわ即答」
「選びようがないだろ」
「お前、変に頭硬いよな。選択肢が二つでも、答え方も二つとは限らない」
「どういう意味だ?」
「こんな場合……特に今日みたいなときはさ。両方ってのもアリなんだぜ?」
「……チョ・コ・レー・ト」
「やれやれ、ほんと野暮。……んじゃ、これ。おめでとな」
「ああ。ありがとう」
 どうして。ピオニーはどうしてこれほど易々、ジェイドからこんな言葉を引き出せるんだろう。どう頑張っても、僕じゃあ無理だったのに。そして僕は、誰にも靡かない孤高なジェイドを格好良いと思っているはずなのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。

 息を弾ませて戻ってきたネフリーは、ジェイドを満面の笑顔で見上げた。その様子に、ピオニーは二人からさりげなく距離を取る。そして僕の方に振り向くと、片目を瞑ってみせた。
「な。やりようだろ」
「ピオニーはずるい」
 そうだ、ピオニーはずるい。ジェイドからマフラーを取り上げておくところとか、いつの間にかそのマフラーはピオニーではなくネフリーの襟元に巻かれているところとか。
「サフィール。今なら奴、祝ってやれるぜ」
 こういう……、ジェイドの家でなく、帰り道でこんなことをしたのは、「お祝いくらいは言いたい」と言った僕のためだというところとか。なんて言うか、『相手にもならない』感覚はひどく惨めだ。
「お祝い、用意してないよ」
「言葉で充分だろ。実際お前の言ったとおり、自分の誕生日なんて気にしちゃいなかったみたいだしなー」
 一回だけ。ジェイドとネフリーを振り返ったピオニーは、僕の肩をぽんとひとつ叩くと、そのままひらひら手を振って、僕の横を擦り抜けた。
「まあ、お前の好きにするといい。じゃな」
 何故ピオニーは、これだけ画策しておいて、こうもあっさり切り上げられるんだろう。ああ、でも。幕引きが鮮やかすぎる、から……だから……ジェイドは。ピオニーの姿を捜して、首を巡らせる。後ろ髪を、引かれたように。
「ずるいよ……ピオニー」
 たっぷりと生地を使ったマフラーは、ふんわりと暖かそうで。そしてそれは、ネフリーと手を繋いで、あるかなきかの仄かな微笑を浮かべたジェイドにとてもよく似合っていて。

 それが、無性に哀しかった。

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ネフリーとジェイドとピオニーを描いたので、文章はサフィール視点にしたらバランスがとれるかと思いきや、どうもサフィールが貧乏籤なことに。
そして当初の予定より「おめでとう!」という話にならなかったので、これから大体二十数年後、

「……っ、ん。ジェ……ド……、それ、は。普通、キス……て、言わねえっ……だろ」
「昔。二択に対する第三の回答を示唆して下さったのは何方でしたっけね?」

とかなんとか、そんな後日談を考えなくもなかったのですが。
いや、退化してるってか、我ながら馬鹿だよなあ……と……。
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