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ルーク・ミュウ・ピオニー

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「みゅ」
 柱をぽかんと見上げたり、欄干をジグザグに潜ってみたり、噴水に鼻面を突っ込んだり。ルークが足を向ける数歩先で、ちょこまかちょこまか興味の赴くままにグランコクマ宮殿を探検していたミュウは、不意にぴたりと動きを止めた。
「ミュウ?」
 どうかしたのかという響きを含んだルークの声に、ミュウは一度振り返ったが、そのままきょろきょろと辺りを見回し、目当てのものを探り出したか、てってこてってこ駆けだした。
 妙に不審な挙動が気になり、なんだなんだと追いかけた、その先には。
「ピオニーさんっ。こんにちはですの!」
 鞠のようにてんてんと弾み、止める間もなくそのままのイキオイでマルクト皇帝の腕に跳び付いた畏れ知らずのチーグルに、ルークは一瞬、固まった。
「み、みみみみみ、ミュウっ!」
「なんですの? ご主人さま?」
 腕を伝ってよじ登り、青の髪飾りから流れる一房に掴まるようにして肩口へちょこなんと収まられてしまっては、無理矢理引き剥がすこともできない。陛下も陛下で慣れた風情、別段驚く様子もない。
 思わず呆気にとられたルークだが、ルークもよく来たなとかなんとか声を掛けられ、はたと我に返った。
「おまっ、いつの間に陛下とそんな仲良く」
「この前来たときは、ブウサギさんに乗せてもらったですのv」
 ……………………。
 ……………………。
 ……………………。
 いーやーもーうー、こーのーブーターザールー!
 それは陛下の肩に乗った状態で言っていいセリフじゃねえ……っ!
「す、すみません、陛下」
 髪を掻きむしりたい気持ちを必死に抑え、ルークは頭を下げた。
「いや、構わねえよ。お揃いだそうだし、その誼だ」
「……お揃い?」
 笑みを含んで鷹揚に片目を瞑った皇帝と、
「ピオニーさんとおそろいですの!」
 自慢げに胸を張るブタザルに、なんとなーく嫌な予感が沸き上がる。
「色がな、一緒だと」
 そう宣いながら、恐れ多くも畏くも皇帝陛下がさらりと捌いた裾は青。白い衣に、揺れる金の宝飾。
 あーそうね、ミュウも青と白の毛並みに金のリングでお揃いね……って。そりゃ根本的なところで激しくナニか違う。ああ、頭痛ェ。
「てか、何で俺が御主人様で、陛下に……っ、その、さん付けなんだよッ」
「みゅ?」
 ミュウは含みのないイノセンスな瞳で小首を傾げた。ビミョーにイラッとくる仕草に、ルークは頬を引き攣らせる。これでまたティアあたりが目撃したら「可愛い……!」とかなんとか呟くのだろうと思うと余計面白くない。
「ピオニーさんは、ジェイド“さん”のお友達ですの。だから、ピオニー“さん”」
 自信満々に繰り出されるチーグル論法。
 がっくり肩を落としたルークに戸惑い、ミュウは更に首を傾げる。
「……ちがうですの?」
「いや、それは、その」
 そういう訊かれ方をされてしまったら、ルークとしてはおいそれと否定できない。ここでもし「違う」と言えば、皇帝とその懐刀の交友を疑うようにも取れてしまう。しかし、だからといって放っておくわけにもいかない。
「陛下もッ。笑ってないでなんとか言い含めて下さい!」
「俺なら気にしないぞ?」
「陛下はそうかもしれませんが!」
 そう。陛下は笑って流してくれる……、だからこそそれに甘えないで、きっちり弁えなきゃならないってのもあるけれど、実際問題として。
「こんなとこ、ジェイドに見聞きされた日にゃ……」
 あの死霊使いは。自分が扱き下ろす分には遠慮の欠片もないくせに、他の者の陛下に対する無礼を許さない。しかも、それならそれで、その場で言ってくれればいいものを、にっこり笑って無言のまま根に持ち続けるんだから、タチが悪いったらありゃしない。

 後日、ロニール雪山で。
 ブウサギと同じような括りで非常食呼ばわりされるミュウに、ルークはほれ見ろ言わんこっちゃねえと溜息をついたとか。

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ジェイドさんオトナゲないですの……
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