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ガイ・アニス

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「まったく、陛下もどうしてこう酔狂なんだか」
 ブウサギを散歩させながら、隣を歩くアニスにぼやく。彼女の手にはジェイドとサフィールのリード。
 アニスがダアトの特使としてグランコクマにやってきたとき、丁度陛下は会議と会議の合間で、小休止を入れていた。陛下も、そしてアニスも、その立場からすると話が早すぎるきらいがある。個人的にお茶しているテラスへと通し通され……その場には、皇帝とその懐刀、それからブウサギを散歩させている途中の俺も居合わせていた。
 そしてアニスの持ち込んだ要件をざっと一通り確認した陛下は、それはもうこれ以上ないくらいサワヤカな笑顔で……ジェイドの目の前で、アニスにジェイドとサフィールの手綱を握らせ(ジェイドとルークとかではなく、ジェイドとサフィールをコンビで選ぶ辺り、細かく点数を稼ぐような嫌がらせだ)、名残惜しげに次の会議へと向かったのだった。
「すまないな、アニス。結局手伝ってもらっちまって」
 我ながら些か情けない声で謝れば、
「えーお気になんてなさらないでくださあい、伯爵さまあv また何かの折りに、ちょーっと思い出していただければっ」
 打てば響く、作られた声、仕草。
 女って怖い。少し前ならそう思っていたところだが、今は……あの陛下の傍で、その仕事ぶりを間近で見るようになって。こういう貸し借りの重さ軽さのバランスが絶妙な言い回しを、上手いと思う。
「……アニスのそんなところって、ちょっと陛下と似てるな」
「それはガイ、買い被りすぎ」
 アニスは頭の回転も速ければ、その思考を行動や言葉に表してみせるのも速い。俺の嘆息を瞬時に過不足なく斟酌し、その上で苦笑しつつもさくっと斬って捨てた。そして少し考える素振りをすると、
「陛下は。私より……イオン様と似てる」
 そんなことを言い出した。
「似てるか? だったらまだ……ジェイドの旦那とかの方が似てないか?」
「まあねー。大佐と陛下は、仲良しな腐れ縁で、藍よりいでた青ってゆーか朱に交わった赤ってゆーか、一緒にいるうちになんか似ちゃった、とか、そんなカンジはするけど」
 アニスは顎のあたりに人差し指を添えて、首を傾げた。
「でも。陛下って、優しいけど甘くない人でしょ?」
「まあな」
「大佐は、優しくないけど、結構甘いところがあるし」
「そおかあ?」
 疑わしげな声音に、アニスはうーんと腕を組んだ。
「たとえば、そうだなあ……大佐と陛下が金貸しだとして」
「…………」
「そこ、ほんのり笑顔で固まってないで、言いたいことがあるなら言えば?」
「……イエ、滅相もゴザいませン」
 じんわり詰め寄るアニスに、後退りしながらふるふると首を振れば、まあ許してやるかあとでも言うように竦められる肩。
「陛下はさ、相手をちゃんと見た上で親身に相談に乗って、適切な金額を適切な利率で貸して、最終的に利子まで含めてきっちり回収して、貸した相手からは感謝されるタイプ。高利でガッポリっていう儲け方じゃないけれど、堅実で、恩義とかそれにくっついてくる情報とか、目に見えない付加価値まで含めたら……それを活用する腕があるなら、最強なんじゃないかな」
「ふんふん」
「大佐は、自分自身に支払う力があるものだから、べらぼうな利率に設定して、それが一般的には暴利だとは思ってなくて。んで、事務的に貸し付けて放置、回収するときは規定に則ってビシバシ取り立てるけど、シビアに催促するうち、うっかり懐に入られて、チャラにしちゃうこともたまーにあるカンジ」
「……判るような判らないような」
 とはいえ、ルークや、禁書を持ち出した譜術士のことが頭をよぎらないでもない。
「じゃ、こう言えばいいかな。私、大佐ってぜんっぜん怖くないんだよね」
「……そりゃ、豪毅な」
 絶句した俺に、アニスは小さく笑って見せた。
「大佐が容赦ないのは知ってるよ。でも、怖くはない。……同じ穴の狢って怖くはないでしょ」
 とんでもないことをさらっと宣い、視線を落とす。そしてジェイドの頭を撫でてみたり、サフィールの耳を軽く引っ張ってみたり。
「逆にね。イオン様は、怖いよ。悲しませることが怖い。信頼を失うようなことをした日には、誰に許されても自分で自分が許せない。自分の中の、どんなことがあっても最後の最後まで保っていたい、一番綺麗なものを失くしたような気分になると思う。けど、でも……ううん、だから、かな。本当にその人のためになると思ったら、その人を悲しませても……汚れることを厭わない。陛下もそんなふうに思わせる人じゃない?」
「……ん。まあ……ねえ」
 軽く流せる話ではなく、かといって人前で正直に頷くのも躊躇われる。
 どちらかといえば肯定、そんな曖昧なスタンスの相槌をうてば、アニスは俺を振り仰いだ。
 痛みを振り切るような、仄かな微笑。
「夢をね。見ているわけじゃないの。なんてったって最高権力者だもん。イオン様……も、陛下も、綺麗どころか……あざとかったりあこぎだったり、ってのは私らなんかの比じゃない、そういう場所にいる人だから」
 そう言いながら、アニスは頬に手をあてて、ほうっと溜息をついた。
「だから余計に、屈託なく微笑みかけられちゃったりすると、う、ってなっちゃうんだよねー」
 や、まあ、言いたいことはよく判る。判るが……ええっと。アニスって何歳だっけか。

 前言撤回。やっぱ女って怖え。

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ピンでも読めるように心懸けたつもりですが、アンソロジーに寄稿した『醒めて見る夢の続き』から零れたネタなのでした
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