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■ガイ(ピオニー)
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空には雲ひとつなく、風は爽やか。清々しい上天気。
テラスでもいいけれど、こんな日は庭でお茶というのもいい。グランコクマ宮殿には大小取り合わせてたくさんの庭園があり、お茶を楽しむような場所には不自由しない。大滝を真正面に臨む庭にはいつでも心地のいい風が吹いているし、私的な空間を演出した公用の四阿もあれば、秘密の花園めいた、知らなければ行き着けないような庭もある。でも今なら、白牡丹が咲くあの庭がいいかな(見頃だということはブウサギの散歩のついでにリサーチ済みだ)。卓と椅子を運び出して……ああ、いや、敷布を広げて、草の上に座っていただこうか。あの人は、そういうのも好きだから。クッションも持っていこう。ふかふかの、うたたねには最適の、とびっきり手触りのいいやつを。それはそうと、肝心の茶器はどうしようか。あの人の立場を思えば銀器のほうが安全で好ましいっちゃあ好ましい、というか俺としても安心なんだが、のんびりとくつろいでもらいたいのに、煌びやかな銀は重すぎる……いやまあそれは俺にさらっと銀器を扱うだけの年輪が足りないってだけなんだが、つきっきりで俺が面倒見るってことで、陶磁器を使おう。ああ、あれがいい、柔らかな乳白色に一筋だけマルクトブルーの刷かれた陶器。あれなら嫌味がなくて、富貴な牡丹と喧嘩しないし。茶葉は今日の気候と花に相応しく、淡く透明な黄金色の……舌触りの軽いものを選んで、でもあのお茶は繊細な香りが身上だから、ミルクはつけない。茶菓子には、口に含むと一瞬だけ強烈に甘くてすっと溶ける砂糖菓子。あれば手が伸びるけど、ひょいひょい摘むというわけでもないところを見ると、あれは好みというより疲労対策の糖分補給なんだろう。うん、やっぱり砂糖菓子は確定で……あとは目に楽しい色とりどりの果物を適当に見繕って、腹の足しになりそうなスコーンかなにかを、念の為に。あ、スコーンならジャムかクリームも用意しなきゃな。あのお茶には柑橘系よりもベリーの類の優しい甘酸っぱさが合うし、幸せなくらいこってりと濃いクロテッドクリームも、ミルクを入れないあっさりとしたお茶にはその重厚感が嬉しいかもしれない。……ええと、うん、両方、だな。それから……都合さえつくのなら、ジェイドも誘おう。なんだかんだ言って、あの人にとってジェイドは『特別』だ。傍で聞くには些か心臓に悪い毒舌の応酬も、仲良く戯れあう当人たちは非常に楽しげだし。
状況に応じて、ひとつひとつ吟味する。こういうことをあれこれ考えるのは、なんだかちょっと擽ったい。
あの人が喜んでくれたなら『俺が』嬉しいので、そういう自己満足というか笑顔を見たいという下心も勿論あるけれど、それよりも激務(……に、見えなかったりするのはあの人ならではなんだろう、多分)……の合間に、少しでも息を抜いてもらいたい。そのためなら、出来るだけのことをしてあげたい。
咲き誇る花も、良い香りのお茶も。まっさらなリネンや、でしゃばらないけどさりげなく名品な茶器も。凝った心をほぐす甘味も……きらきらと降る午後の木洩れ日や極上の空の青さや淀みなく澄んだ流れる水のせせらぎさえも、すべてはあの人のため。
(そう。あなたのためならば、)
---まったく、ジェイドも少しはこいつを見習えよ。
---お言葉に添うのも吝かではありませんが、本当にそれをお望みで?
---やっぱいい。想像するだにキモイ。あ、やべ、トリハダたちそ。
(俺の胸の痛みなど、取るに足らないことだよな)
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あなたへとどく20のことば:03 すべてあなたのため
空には雲ひとつなく、風は爽やか。清々しい上天気。
テラスでもいいけれど、こんな日は庭でお茶というのもいい。グランコクマ宮殿には大小取り合わせてたくさんの庭園があり、お茶を楽しむような場所には不自由しない。大滝を真正面に臨む庭にはいつでも心地のいい風が吹いているし、私的な空間を演出した公用の四阿もあれば、秘密の花園めいた、知らなければ行き着けないような庭もある。でも今なら、白牡丹が咲くあの庭がいいかな(見頃だということはブウサギの散歩のついでにリサーチ済みだ)。卓と椅子を運び出して……ああ、いや、敷布を広げて、草の上に座っていただこうか。あの人は、そういうのも好きだから。クッションも持っていこう。ふかふかの、うたたねには最適の、とびっきり手触りのいいやつを。それはそうと、肝心の茶器はどうしようか。あの人の立場を思えば銀器のほうが安全で好ましいっちゃあ好ましい、というか俺としても安心なんだが、のんびりとくつろいでもらいたいのに、煌びやかな銀は重すぎる……いやまあそれは俺にさらっと銀器を扱うだけの年輪が足りないってだけなんだが、つきっきりで俺が面倒見るってことで、陶磁器を使おう。ああ、あれがいい、柔らかな乳白色に一筋だけマルクトブルーの刷かれた陶器。あれなら嫌味がなくて、富貴な牡丹と喧嘩しないし。茶葉は今日の気候と花に相応しく、淡く透明な黄金色の……舌触りの軽いものを選んで、でもあのお茶は繊細な香りが身上だから、ミルクはつけない。茶菓子には、口に含むと一瞬だけ強烈に甘くてすっと溶ける砂糖菓子。あれば手が伸びるけど、ひょいひょい摘むというわけでもないところを見ると、あれは好みというより疲労対策の糖分補給なんだろう。うん、やっぱり砂糖菓子は確定で……あとは目に楽しい色とりどりの果物を適当に見繕って、腹の足しになりそうなスコーンかなにかを、念の為に。あ、スコーンならジャムかクリームも用意しなきゃな。あのお茶には柑橘系よりもベリーの類の優しい甘酸っぱさが合うし、幸せなくらいこってりと濃いクロテッドクリームも、ミルクを入れないあっさりとしたお茶にはその重厚感が嬉しいかもしれない。……ええと、うん、両方、だな。それから……都合さえつくのなら、ジェイドも誘おう。なんだかんだ言って、あの人にとってジェイドは『特別』だ。傍で聞くには些か心臓に悪い毒舌の応酬も、仲良く戯れあう当人たちは非常に楽しげだし。
状況に応じて、ひとつひとつ吟味する。こういうことをあれこれ考えるのは、なんだかちょっと擽ったい。
あの人が喜んでくれたなら『俺が』嬉しいので、そういう自己満足というか笑顔を見たいという下心も勿論あるけれど、それよりも激務(……に、見えなかったりするのはあの人ならではなんだろう、多分)……の合間に、少しでも息を抜いてもらいたい。そのためなら、出来るだけのことをしてあげたい。
咲き誇る花も、良い香りのお茶も。まっさらなリネンや、でしゃばらないけどさりげなく名品な茶器も。凝った心をほぐす甘味も……きらきらと降る午後の木洩れ日や極上の空の青さや淀みなく澄んだ流れる水のせせらぎさえも、すべてはあの人のため。
(そう。あなたのためならば、)
---まったく、ジェイドも少しはこいつを見習えよ。
---お言葉に添うのも吝かではありませんが、本当にそれをお望みで?
---やっぱいい。想像するだにキモイ。あ、やべ、トリハダたちそ。
(俺の胸の痛みなど、取るに足らないことだよな)
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あなたへとどく20のことば:03 すべてあなたのため
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